【ICT 教育のデメリットと課題】
先生・教育関係者の現場視点から考える解決方法
を紹介
GIGAスクール構想により「1人1台端末」環境の整備が進み、義務教育を中心にICT教育の活用が始まっています。しかし、一方で教育の現場に目を向けると、ICTを使いこなしている学校と、あまり導入が進んでいない学校とで差があるようです。ICTは今後の教育現場には欠かせない、可能生を秘めたツールですが、さまざまな課題に直面し、とまどっている先生もまだまだ多いのではないでしょうか。
今回はICT教育のデメリットや現場の先生が抱える課題をご紹介しながら、それらの解決に向けてどのように対処していったらよいのか、紹介していきます。
教育分野におけるICTの課題とデメリットは3つの視点に分けられます。
ICT 教育の課題・デメリット【1】器機などのハードやWi-Fiなどの通信設備
ICT 教育の課題・デメリット【2】教員のスキル
ICT 教育の課題・デメリット【3】生徒への弊害
それぞれの視点で、課題の状況と解決策について見ていきましょう。
ICT 教育の課題・デメリット【1】器機などのハードや
Wi-Fiなどの通信設備
●端末や電源キャビネットなどのハードの用意にかかる負担
ICT教育の実現には、当然ながらまずタブレット端末などのハードが必要です。その端末を誰がどのように用意(購入)するのか、が最初のポイントとなりますが、ここでまずは端末の整備状況について見てみましょう。
文部科学省の提唱するGIGAスクール構想の推進により、義務教育段階における1人1台端末の整備は非常に進んでおり、令和3年の10月時点で、全国の公立の小学校等の96.2%、中学校等の96.5%が、「全学年」または「一部の学年」で端末の利活用を開始しています。学習者用端末1台当たりの児童生徒数も1.0人、つまり1人1台端末の整備は、数字上は達成されたと言える状況です。
しかし、一方で公立高校に目を向けると、まだまだ導入が進んでいない地域も多く、かつ保護者負担での端末導入となっている場合も一定割合あることがわかります。
GIGAスクール構想が提唱され、ICT教育の推進が必要だと理解していたとしても、自費で用意することに対する不満や意見などを持つ保護者は一定数いらっしゃるでしょう。そういった不満や意見を受けるのはどうしても現場の先生となり、心理的負担もかかってしまいます。学校負担での購入でない場合は、保護者に対する端末の必要性についての丁寧な説明が必要になってきます。
また、保護者が購入する、いわゆるBYOD形式の場合にもうひとつ問題になるのが、端末のスペックやOS、バージョンなどに対する統一性の観点です。学習ツールを導入する場合は、推奨する環境に準じていることが必要です。別の視点では、家庭ごとに購入する端末の価格に差が出ることも好ましくはないでしょう。
文部科学省では、OSやネットワークに関する例を「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」として公開しているので、参考にしてください。
2022年2月現在、高等学校における端末購入のための補助金は存在しておりませんが、文部科学省では、高等学校における1人1台端末整備の重要性を発表していますので、今後の補助制度に期待が集まります。
●Wi-Fiなどの通信設備や端末管理
端末だけでなく通信設備も必要不可欠です。家庭で家族だけがインターネットを使うのとは異なり、基本的に一人一台、クラス全員、そして全クラスの生徒がある程度同時接続しますので高速大容量の通信ネットワークが必要となります。
当然、現場の先生やいち担当者の知識・知見だけでは困難な行為です。文部科学省ではICT教育環境整備のための支援を行うGIGAスクールサポーターについての情報を公開していますので、このような支援を活用するのもひとつの方法です。
また、端末器機の扱いについても考慮する必要があります。学校によっては、端末を設置するラックを施錠し厳しく管理するところと、生徒に比較的自由に使える余地を与えている学校があります。現場の先生としては、「端末機は特別な物」という意識がどうしてもはたらいてしまいがちですが、生徒のスキルが上達するのは、自由に使わせている学校です。
なかには自宅に持ち帰り出来る学校、土日、長期休暇は持ち帰りを許可されている学校もあります。持ち帰った時の破損や、学校へ持ってくるのを忘れたりするなど、課題はありますがルールを決めて、できるだけ生徒の自由度を上げていくことも重要な視点です。
情報セキュリティを中心に、端末の扱いについてのガイドラインを文部科学省が提供しています。ぜひ参考にしてください。
ICT 教育の課題・デメリット【2】教員のスキル
現場の先生にとって、今まで使ったことのないものを授業に取り入れるのは、心理的な抵抗があるものです。しかしいくら端末やソフトが揃っていても、肝心の授業でうまく活用されていないのでは宝の持ち腐れになってしまいます。いくつかの項目に沿って、課題をみていきましょう。
●ICTの活用の仕方がわからない、ツールに頼りすぎてしまう
ICTはあくまでも手法ですから、目的にはなり得ません。いわば鉛筆やノートなどの文房具、教科書や辞書がデジタル化されたものと考えた方がいいでしょう。もちろん、ICTを教育に取り入れることで、今まででは考えられなかった特別な授業が可能になることは確かです。しかしまずは、今まで行ってきた授業からいきなり変えるのではなく、デジタルテキストなど、すでにできあがっているコンテンツの導入から初めてみるのも方法です。
どんな道具でも、使いこなすためには慣れることが大切です。まずは手近なところから、一歩踏み出してみましょう。
また、ICT教育のメリットとして、双方向型の授業、ひとりひとりに寄り添った授業、リアルタイムで情報を共有する授業など、学習支援ツールを活用することで、様々な可能性が広がっています。しかし一方で、ツールを使えば良い、機能を使ってみよう、ということが先行してしまい、何のためにICTを教育に取り入れているのか、見失ってしまわないことが大切です。
●教員の業務量が多く、ICTについて勉強する時間を取りにくい
現場の先生の業務は授業だけではありません。ICT教育を活用する以前から行っていた校務にさらに新たなことを学ばなければいけないのですから、なかなか推進できない状況もありますし、ICTの活用に慣れていないことで、授業の準備にも時間がかかってしまう、ということもあるでしょう。
個々のスキルの差が大きいのもICTの特徴です。使い慣れていない人は、一人で試行錯誤せず、研修を受けたり校内外での研修会・勉強会を積極的に行ったりすることも有効です。
ある学校で、オンライン授業のためICTの講習会を開いたところ、最初は及び腰だった先生も、使い方を覚えると非常に熱心に取り組まれていたそうです。「先生役をやってみたいので、ホストをやらせてほしい」と希望されたり、教科ごとに集まり「当教科ではICTでどんなことができるか」など、自主的に講習を開いたりしたそうです。講師の方は「先生がたは、教えることに関してはプロだと実感しました。使い方を覚えると、こちらが想像していなかったようなアイデアを出してくる」と、驚いていました。
文部科学省では、教育の質の向上を目的とし、ICTを活用した指導方法についての助言や研修支援などを行う「ICT活用教育アドバイザー」の活用事業を実施しています。詳しい人が学内にいればそれに越したことはありませんが、そうでは無い場合はこのような仕組みを活用するのもよいでしょう。
ICTを使いこなせるようになると授業の準備が格段に早くなったり、板書などの時間がなくなったりします。それは決して授業の質の低下に繋がるものではありません。むしろ、空いた時間で教員や生徒、生徒同士のやり取りや、生徒の発言の機会を増やすなど、授業の質を高めることにもなります。ICTの活用で、オーバーワーク気味の教員の仕事を軽減することになれば理想的です。
ICT 教育の課題・デメリット【3】生徒への弊害
先生が一番気になるのが、こちらかもしれません。想定される問題を挙げてみましょう。
●想像力や思考力、読み書きの能力の低下の懸念
インターネットは簡単に検索できる便利なツールで、つい頼ってしまいたくなります。ただし、調べることと考えることはまた別の作業です。自分で調べたことを材料に、いかに思考力を使って発展させていくのか、先生の指導次第で共存できるでしょう。
「読み」に関して、タブレットやパソコンを使うことでどんどん先に進み、小学生が中学レベルの漢字を読めるようになったという例も見受けられます。一方で書くことに関しては、大人でもパソコンを使っていると漢字を書けなくなってしまうように、全く弊害がないとは言えません。ただ、キーボードを使った方が、紙に書くよりも記述量が増えたり、書くことをいやがらなくなったという例もあります。簡単に文章を直すことができるので、文章を書くことに対する抵抗がなくなるようです。良い部分は認めつつ、学習の中で手書きの機会をしっかり設けていくなど、バランスを保つことが重要になってきそうです。
●個人情報の流出、有害サイトへのアクセスなどセキュリティ面
情報の漏洩は教育現場のみならず、社会でも問題になっています。生徒の成績は学校以外に持ち出さない、データを個人のメールなどで送信しない、など先生側のルールの整備と遵守が必要になります。
また、生徒側のインターネットの利用についての指導やケアも重要です。学校で配布する端末機には、セキュリティ対策ソフトをインストールし、有害サイトへのアクセスをブロックしたり、SNSを使えないようにしたりするなどのフィルタリングも必須です。
しかしいくら学校やシステムで規制をかけても、子どもたちはいずれ自身の判断、責任のもと、インターネットという大海を泳ぐことになります。むしろ学校にいる間に、どのようなサイトに注意すべきなのか、きちんと学んでおくことも重要です。
●情報の正確性についての懸念
明らかに有害なサイトを避けることはわかりやすい自衛ですが、学習における調べ物のなかで、どのサイトであれば信頼できる情報として取得できるのか、という判断は意外と難しいものです。政府や自治体のサイト、権威ある研究機関や大学などの教育機関、世間的な信頼のある新聞社のサイトなど以外にも膨大な情報が存在しています。この判断には、ある程度の社会経験も必要となるでしょう。先生としても、情報元の信頼性については注視したりケアしたりする視点を持つことが求められます。
また、インターネット上には、無料の辞書サイトなども多く存在しますが、信頼性についてはどうしても利用者の判断や責任に委ねられます。学習支援ツールに含まれる、信頼できる辞書機能を使うことが必須となるでしょう。
まとめ
教育現場へのICT活用は新しい挑戦であるがゆえに、これからもさまざまな課題が出てくることが想定されます。しかし逆に、目の前に壁が生じたときこそ、みんなで知恵を絞って解決に向かうというのは、教育の本質でもあるのではないでしょうか。むしろ一番の弊害は、変革を受け入れようとしないかたくなな気持ちや態度かもしれません。「問題が生じてあたりまえ」、くらいの鷹揚な気持ちで、ぜひ、これからも新しい学びに挑戦してください。
■著者・監修者
柿崎 明子
教育ライター。長期にわたり教育現場を取材。朝日新聞出版の週刊誌「AERA」、朝日新聞の教育サイト「EDUA」、東洋経済新報社の「週刊東洋経済」などに教育記事を多数執筆。
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