【高校ではICT教育はどのくらい進んでいる?】
現役の先生にお伺いした実情と課題
ICTを活用することが良いとはわかっていても、実際の現場ではさまざまな阻害要因があります。何が問題なのか、高校におけるICT教育を考えるにあたって、3名の先生にお話をお伺いし、それぞれの状況について教えていただきました。
そこから見えてきた課題や解決のヒント、また調査データからわかる推進状況などをご紹介いたします。
高校におけるICT教育の実情
コロナ禍により、前倒しで始まった小中学校を対象としたGIGAスクール構想は、ほぼすべての自治体で完了しました。2022年4月現在、全国の公立小中学校で1人1台端末を持ち、高速大容量の通信環境の元でICT教育を推し進めています。もう少し先に目を向けると、高校卒業後の大学、または社会においてICTの活用はますます重要度を増してきます。その橋渡しをする高校で後戻りするようなことがあってはいけません。そのために必要なのは、やはり高校での1人1台端末の整備です。
2022年度から新しく「情報1」が必修科目になることもあり、文部科学省は、下記のような通知を出しています。
「高等学校については、令和4年度入学生から、新学習指導要領が年次進行で実施されます。新学習指導要領においては、情報活用能力を学習の基盤となる資質・能力の一つとして位置付けるとともに、情報科における共通必履修科目「情報Ⅰ」においても、全ての生徒がプログラミング、情報セキュリティを含むネットワーク、データベースの基礎等について学習を開始することとなっております。これらを踏まえても、高等学校段階においても1人1台の学習者用コンピュータ端末(以下単に「端末」という。)環境を早急に整備することが必要です。」
しかし、次のグラフを見ると、高等教育におけるICT教育、その土台となる1人1台の学習者用コンピュータ端末の整備はまだまだ途中段階で、県や市区町村の財政状況や教育委員会の方針によって、自治体ごとに差があるのが実情です。
高校におけるICT教育の課題
この状況を踏まえつつ、実際に高校でICT教育の推進を担当している3名の先生にお伺いしたお話も含め、高校におけるICT教育の課題を考えてみましょう。
2022年度導入の「情報Ⅰ」必修化を受けて、2025年の大学入学共通テストから新教科「情報」が追加されることを考慮すると、一刻も早い、1人1台の整備が求められますが、高校におけるICT教育・GIGAスクール構想推進の課題はやはり存在しているようです。
●端末導入の課題
首都圏の公立高校に勤務しているN先生は、県の教育委員会から「1人1台端末を導入するように」と指示があったものの、経済的な支援はなかったと言います。
「県には160校くらい高校があるので、全校に貸与するのは予算的に難しかったのでしょう。どういうふうに生徒に端末を導入したら良いのか、考えている最中です。」
先程の「高等学校における学習者用コンピュータの整備状況」のグラフを見ると、自治体によって、全額負担して貸与したり、原則全額保護者が負担したりするなど、対応に差が生じています。N先生と同じ悩みを抱える学校が多いことが想像できます。
まだ導入が進みきっていない自治体では、保護者負担を求めることが多いであろうことを考えると、いかにして保護者へ説明し、理解を得ていくかが重要なポイントとなりそうです。
ここで、保護者が購入する場合の3つのパターンをご紹介します。
【BYAD(Bring Your Assigned Device)】:学校が指定するものを購入する
全ての生徒が同一の端末を使用することになるため、学校側が求める性能や統一性を満たすことができる反面、「できるだけ家計に負担とならない価格帯のものを選びたい」と考える家庭には理解を得られにくい、というデメリットがあります。
【CYOD(Choose Your Own Device)】:学校が推奨するなかから選んで購入する
学校側が求める要件を満たしつつも、生徒や保護者が自ら選んだ端末を使用することができます。
【BYOD(Bring Your Own Device)】:生徒が個人(家庭)で所有している端末を使う
保護者の金銭的負担は軽減されますが、環境の不統一、データ管理やセキュリティ対策が不十分になる懸念があります。
義務教育での授業/学習は「クラスみんなで同じことをする」ということが重要視されますが、高校の授業は、個人それぞれの学習方法の多様性があり、広範囲にわたってきます。そういったことを鑑みれば、BYODもしくはCYODの方式を柔軟に選択していくのも大切ではないでしょうか。家庭の経済状況に合わせて選択できますし、何よりも生徒が自分自身で選ぶことで、ICT教育に臨む際のモチベーションにもなります。
●端末管理の課題
一方で、貸与であっても、学校側の端末管理の問題があります。自治体が熱心で、高校には1人1台の端末が支給されているという公立高校のC先生。規模の大きい学校で、C先生を中心に約20人の教員がICT教育推進チームを作って活動しています。一見恵まれているように思えますが、C先生はメンテナンスの大変さをあげます。
「年度末には、教員が何百台もの端末の切り替えを行います。壊れたときの対応も、我々現場の職員の仕事です。自治体によって、支援要員がいるところもあるようですが、本県はサポートが手厚くはなく、生徒に購入してもらった方が楽かも知れない…と感じることもあります。」
端末支給後の活用や管理は、学校に任せられている、という自治体も多いようです。つまり、現場の先生に任せられている、ということになります。破損や不具合、リースの更新、卒業した学年が使っていた端末の初期化等。現場の先生の負担も軽くはありません。
使用するアプリケーションも学校に一任されているケースがありますが、公立では教員の異動があるため、異なるアプリケーションだと慣れるまでに時間がかかる、という問題もあるようです。
●ICT教育の推進方法についての課題
県知事が全国知事会の情報化推進プロジェクトチームのリーダーということもあり、県内全高校に一人一台端末が導入されている環境下にあるK先生。全教員と全生徒に、Microsoft(マイクロソフト)とGoogle(グーグル)の2つのアカウントが配布されているそうです。
「高校に関して言えば、G I G A端末の導入は決定権をもつトップの判断が大きいと思います。本県では、公立高校における1人1台端末の配備は全国的に進んでいる方です。ただ、教師が急激な環境の変化に対応できなかったり、生徒の端末使用に潜む問題から遠ざけようとしたり、端末の活用を躊躇する背景は多岐に渡ります。生徒は学校を出れば、スマートホンなどの機器端末を当然のように使用します。社会で起こりうる問題は学校でも起こることで、学校で一時的に問題が起こらないように管理制限をかける状況は、ただ問題を先延ばししているだけの側面があるように感じられます。これは抜本的な教育のためにも目を背けられないはずの緊急課題ですが、同時に情報モラルやリテラシーの教育が欠かせません。
学校だけが特別ではなくて、学校が社会を学ぶ場となるように体制の再構築が必要ではないでしょうか。」
ICT教育をどのように進めていくのか、義務教育ではある程度の指標がありますが、高校では各校や先生の裁量に任せられています。そのため、学校間、先生間によって差が生じているようです。現に、積極的にICTを活用している先生は3割に止まっています。
一方で、活用したいと思っている先生が6割強いることもわかっています。ただやはり、方法がわからなかったり、日々の業務でなかなか覚える時間がとれなかったりする先生も多いようです。
多忙な先生がICT教育に取り組むには
3人の先生は、学校ではICT教育の推進役として他の先生方を先導する立場でいらっしゃいますが、共通するのが、教員によってスキルの差が大きいというご意見でした。そのような状況で、それぞれどのように取り組まれているのかについて伺いました。
N先生は心理的な抵抗について、こう話します。
「本校では、個人的に先生方が使っていますが、学校全体で使い切れているとは言えません。推進リーダーが集まって、どうやったら先生方が使いやすくなるのか、話し合っています。オンライン授業を作るときには、YouTubeで音楽を効果的に使うといいですよとか、基本的な使い方から提唱しています。」
C先生は、さらに根本的な問題について指摘します。
「たとえば1ケ月くらい集中してICT教育の研修を受ければ、先生たちは皆使えるようになると思いますが、まず不可能です。先生方は優秀な方が多いので、便利だと気づけば使い始めると思います。ただ日々の業務が忙しすぎて、なかなかチャレンジする心の余裕を持つことができません。」
どうしたら先生方の使ってみようというきっかけになるのか。K先生は言います。
「生徒だけではなく、教員だって『活用してください』と外発的に言われると、内側からやる気は湧き起こりません。ICT教育の推進も同じだと思います。いくら自治体や教育委員会が旗を振っても、現場の先生がメリットを感じて、自ら使ってみようと思うようにならなければ、浸透していかないと思います。」
「GIGA端末の配備状況は自治体によって差があると言いましたが、同じ自治体傘下でも、学校によって端末の使用状況に温度差があります。たとえば前任校では、生徒が端末を持ち帰ることができましたが、現任校では端末を持ち帰ることができません。つまり、授業で教師が指示や許可をしない限り、端末機器は教室の格納庫に眠ったままです。持ち帰りできると、生徒はどのように使うか自分で判断する機会が生まれるため、活用のきっかけになります。一例ですが、前任校では複数の生徒が1ヶ月足らずで、タイピング技術を驚くほど向上させました。生徒に聴くと、級友同士でタイピングの速さをゲーム感覚で日々競っていたようです。」
K先生が提案するように、生徒に端末機の持ち帰りの選択を許可すれば、生徒は自ら判断して選ぶ機会を得るため、スマートホンと同じように使い方を自然に覚えるきっかけになります。そのことによって、端末の使い方を一斉に指導する教員の負担も軽減するのではないでしょうか。
まとめ
多忙な先生方に、ICT教育の利点を感じてもらい、使用したいという意欲をいかに高めていくか。鍵はそこにあるようです。
そこで次回は、高校におけるICT教育の活用の視点と現場の先生に聞いたICT教育の具体例をご紹介します。
■著者・監修者
柿崎 明子
教育ライター。長期にわたり教育現場を取材。朝日新聞出版の週刊誌「AERA」、朝日新聞の教育サイト「EDUA」、東洋経済新報社の「週刊東洋経済」などに教育記事を多数執筆。
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