授業支援システムとは?
授業に活かすポイントや必要性を教師の視点で紹介
本記事では、急速に進化するICT(情報通信技術)を活用した授業支援システムに焦点を当て、その基本的な概念から具体的な活用法や効果、注意点を網羅的に解説します。
教育現場での具体的な実践例を通した授業支援システムの活用方法、効果的な活用のための注意点や課題など、授業支援システム導入の際の重要なポイントを見ていきましょう。
授業支援システムとは
授業支援システムとは、ICT(情報通信技術)を用いて生徒の学びを促進し、教師の授業運営をサポートする多様なツールの総称です。これらのシステムは、教育分野におけるIT技術の進展と文部科学省のGIGAスクール構想に伴い、急速に普及しています。
具体的に、教師と生徒がタブレットやPCを活用し、デジタル教材を使って授業を進行する場面をイメージしてみましょう。これらの教材は従来の紙の教科書に替わり、端末上で表示されます。従来の授業では「教師が準備した課題を生徒が解いていく」といったものでしたが、授業支援システムを利用することで「生徒が課題に必要なものを自ら見つけ取り組んでいく」といった学びの転換が起きます。教師が課題を準備する場合も、授業の効率化、自動集計機能を通じた課題の処理や成績の組み込みが可能になります。
また、教師が生徒の画面をリアルタイムで確認できる機能や共有機能、コメント機能などが搭載されており、これらは従来の授業形式にない新たな可能性を提供し、教師の負担を軽減し生徒の学習効果と参加意欲を高めます。
授業支援システムの必要性
授業支援システムは現代社会において、教育の多様化とデジタル化に応えるために不可欠なものです。このシステムにより、教師の直感だけに頼らない、個々の生徒の学習進度や理解度に合わせた教育を提供することが可能になります。教師にとっても、授業計画の柔軟性や生徒の学びの吸収率を大幅に高めることができる重要なツールになります。また、生徒たちのデジタルリテラシーを強化し、21世紀のスキルを育成する重要な手段でもあります。
授業支援システムの代表的な機能
大きくは以下の7つに分かれます。
①学習管理システム(LMS)
授業計画・教材の配布・課題の提出と評価・成績管理などを一元化し、オンラインで行うことができるプラットフォームです。
②コンテンツ管理
教材・ビデオ・プレゼンテーション・その他の教育関連資料を管理し、生徒が容易にアクセスできるようにします。
③コミュニケーションツール
教師と生徒、または生徒同士のコミュニケーションを容易にするためのフォーラム・チャット・ビデオ会議ツールなどが含まれます。
④進捗確認とレポート
生徒の学習進捗・成績・出席状況などを確認しやすくします。また、生徒自身も、自らの学習成果を確認しやすいため、自己評価を促しやすくなります。
⑤適応型の学び
生徒の個々のニーズや学習スタイルに合わせて、カスタマイズされた学習経験を提供します。
⑥評価ツール
オンラインクイズ・テスト・その他の評価方法を提供し、生徒の理解度を測るための時間を大幅に減らすことができます。
⑦コラボレーションとグループワーク
オンラインでのグループプロジェクトやディスカッションをサポートし、協働学習を促進します。
授業支援システムの使用は、教育の質を向上させる可能性に溢れています。また、教師の作業負担を軽減し、生徒により個別化された学習経験を提供することができます。これにより、教室内外の学習が効率的でアクセスしやすくなります。
授業支援システムの5つの効果
授業の教材力を高める
授業支援システムには、辞書や参考書など豊富なデジタル教材が含まれたものがあります。こういったプラットフォームを利用することで、多種多様な教材や情報を生徒に提供でき、各教科内容を理解し思考を深めるのに役立ちます。
語句の意味を調べる際、インターネットで生徒それぞれが調べると、バラバラな情報や正確性に不安のある情報が出てきてしまいますが、授業支援システムに含まれるオンライン辞書機能を活用することで、正確な情報をクラス全員で共有・把握しながら授業が進められるメリットがあります。
生徒の学びの進捗を確認しやすくなる
授業支援システムを利用することで、生徒の活動や進捗を確認しやすくなります。授業支援システムを介してクラス全員に課題を提出し、できた生徒から提出してもらうことで、理解が進んでいる生徒、つまずいてしまっている生徒を把握できます。どこでつまずいてしまっているのか教師が把握できることで、個別に適切なアドバイスをすることもできます。クラス全体で理解度が低いと感じた時には一度生徒の解答作業を止め、改めて丁寧に説明するなど効果的な進行が可能となります。
生徒は自らの思考過程や現状の解答を保存し、クラスメイトや教師からのフィードバックを基に改善に繋げていくことができます。生徒自身が自らの理解度を正確に把握し、教師も適切な指導を行うことが可能になります。
授業がアクティブになる
授業支援システムを利用すると、教師が生徒一人一人の考えを把握できるようになります。これにより今までは個人のノートや頭の中だけにあった「ユニークな視点」や「ハッとするような気づき」などを積極的に取り上げることができ、授業のテーマをより深めたり幅を広げるような話をすることができるでしょう。
また、生徒側も「自分の意見が紹介された」と嬉しく感じたり、気づいたことを表現してもいいんだ」と自信を持てたりといった効果もあります。挙手をして発表した生徒だけが授業の表舞台に立つのではなく全ての生徒の考えを表に出せることで、多くの生徒がより積極的に授業に臨む姿勢を持てるはずです。
評価が効率的に行える
授業支援システムを利用することで、課題やテストを簡単に作成し実施することができます。提出された課題はデータとして管理できるため、評価の効率化に繋がります。授業中に解答を終えられなかった生徒でも、しっかり時間をかけて解き自宅から提出することもできるため、評価の正確性も向上するでしょう。
また、「探究」の授業など比較的時間をかけた課題においては、最終的な成果物だけではなく「過程」を把握できます。「形成的評価」を実施することで学習活動を深めることができるでしょう。
過程を評価しづらかった教科である美術でも、作品作りの工程を写真で残し提出することで、今までとは異なる評価を行える可能性があります。
協働学習の促進
授業支援システムは協働的な学びの促進にも寄与します。生徒同士が問題について情報収集したり議論したりしながら、一つのデジタルノート上で協働作業し、それを発表するといったことが可能になります。授業が単なる知識の獲得ではなく、チームワークのスキルを学んだりディスカッションの機会になったりします。
授業支援システムを活用した実践例
実践例:「単元のキーワードで探究プロジェクトX」
目的:単元のキーワードとなるXの理解を深め、協働的な学びを通して、クリティカル・シンキングを促進する。
①教材の配布(LMSの利用)
教師は授業支援システムを使用して、デジタル教材を生徒に配布します。教材には単元のキーワードの基本概念が含まれているものとします。
②生徒の問い発露と共有
生徒は単元を学んでいる中で浮かんだ「キーワードに関連した問い」をいくつも残していきます。授業の中で他の生徒と問いを共有する場面も設け、なぜその問いが自分にとって重要かを話し合います。単元の後半には、最終的に1つの問いを選択します。
③問いの決定とフィードバックループ
生徒は自分の選んだ問いに対する仮説を考えます。プラットフォーム上で自分の仮説を記入し、教師や他の生徒からフィードバックを受け取ります。
④適応型の学びの促進
さらに生徒は自分の「問い」と「仮説」に対する「根拠」を探していくために、自分のペースで学び続けます。必要に応じて個別の学習スタイルに合わせた教材を利用します。
⑤協働プロジェクトの実施
生徒は特定のテーマでグループをつくり、それぞれの「問い」「仮説」「根拠」の発表を行います。このプロセスでは、授業支援システムのデジタルノート機能などが活用され、生徒同士の議論と共同作業を支援します。
⑥リフレクションの実施とプロジェクトの継続
発表して終了ではなく、生徒自身がどのように感じたか・考えたか・気づいたか、などについて内省する機会をつくりましょう。さらに、そこから浮かんだ問いについて生徒が引き続き考えられる機会をつくりましょう。例えば、今回の一連のプロジェクトをレポートにまとめたり、動画にまとめたり、といった課題を次の単元で部分的に設けることで、年間を通して継続した取組となります。
この実践例は、一般的な授業支援システムを活用し、どの教科でも実施できる探究的な学びです。知識を身に付けるだけではなく、生徒の主体性や対話的な姿勢を育み、深い学びに繋がる活動です。
授業支援システム活用の注意点
最後に、授業支援システムを活用するうえでの注意点を考えてみましょう。
①直接的なコミュニケーションを維持しよう
ITへの過度な依存は、C(コミュニケーション)を減らす可能性があります。「対面でしかできないこと」「対面ではなくともできること」「対面ではできないこと」を区別し、ITを利用するだけではない、本当のICT活用を実施しましょう。
②最低限のデジタルスキルを向上しよう
授業支援システムを活用するためには、教師と生徒の両方に最低限のデジタルスキルが必要です。これには、基本的なコンピュータ操作、オンラインリソースの活用、デジタルセキュリティの理解が含まれます。定期的な研修やサポートを通じて、これらのスキルを身に付け、適切にシステムを活用する必要があります。管理職に積極的に必要性を伝え、研修の場面を設けましょう。
③デジタル・ディバイドに気をつけよう
全ての生徒が十分に授業支援システムを利用できるよう、デジタル・ディバイド(インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差)に注意することが重要です。資源の不足やアクセスの不平等が学習の機会に影響を与えることがあります。何も考えていないと、自分から発言しない生徒はどんどんおいていかれてしまいますので、こまめに生徒同士で確認してもらう場面を設けたり、直接生徒たちに確認したりしましょう。また、家庭でのIT環境も考慮し、必要に応じて支援を提供することが重要です。
これらの点を考慮することで、授業支援システムはその効果を最大限に発揮し、教育の質を向上させることができます。
ここまで見てきたように、授業支援システムは令和時代の教育にとって必要不可欠なツールになっていると考えられます。学びを促進できる使い方を共に探究していきましょう。
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■著者・監修者
芹澤 和彦
高校英語教員/教育クリエイター
講演、企業研修、教員研修、イベント運営を多数実施。英語教育ではEF Excellent Award in Language Teaching 2019 Japan Finalist 第2位の表彰、アントレプレナーシップ教育ではNPO法人BizWorld Japan アドバイザー、ICT教育では2019~2022 Microsoft Innovative Educator Expertの認定を受けるなど、ジャンルを越えて教育実践を展開している。探究やクリエイティブ・ラーニング型授業の実践家である一方で、教員をしながら個人事業として起業。学校と社会の繋がりをつくる多様な活動をしている。
著書『中学校・高等学校 4技能5領域の英語言語活動アイデア』(明治図書)。
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