アクティブラーニングとは?教師の視点で紹介するメリットやデメリット、授業への活用方法
「アクティブラーニング」は教育の新たな波として脚光を浴び、現在は「主体的・対話的で深い学び」と言葉上変換され、学校教育界に浸透しています。当たり前の言葉として定着しつつあるアクティブラーニングですが、教育の現場で日々奮闘する先生の中には、授業にどのように取り入れたら良いのかよくわからない、という方もいらっしゃるかもしれません。そこで本コラムでは、改めてアクティブラーニングとは何か、メリットやデメリット、そして具体的な手法や実践例などをご紹介します。
※この記事では、文部科学省の掲げる「アクティブ・ラーニング」も含意しつつ「アクティブラーニング」と表記を統一しています。
アクティブラーニングとは
アクティブラーニングとは、教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、生徒が能動的に考え学修へ参加する教育法・学習法のことです。これにより、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図ります。グループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等が有効なアクティブラーニングの方法として知られています。
文部科学省では、アクティブラーニングの特徴として以下の6つを提示しています。
①学生は、授業を聴く以上の関わりをしていること
②情報の伝達より学生のスキルの育成に重きが置かれていること
③学生は高次の思考(分析、総合、評価)に関わっていること
④学生は活動(例:読む、議論する、書く)に関与していること
⑤学生が自分自身の態度や価値観を探究することに重きが置かれていること
⑥認知プロセスの外化※を伴うこと
※問題解決のために知識を使ったり、人に話したり書いたり発表したりすること
これらをふまえて考えると、学校現場における「アクティブラーニング」とは、脱レクチャー中心の授業であり、結果、生徒たちも学びに積極的なあり方を示せている状態だと言えるでしょう。
参考:文部科学省 教育課程企画特別部会 論点整理 補足資料(5)
アクティブラーニングを文部科学省が進める背景
では、なぜ「アクティブラーニング」が求められているのでしょうか。とても面白い魅力的なレクチャー型の授業を実施し、知識を効率良く身に着け、楽しめる授業を目指すのでは不十分なのでしょうか。
文部科学省は10年に一度、学習指導要領の改訂を行います。これまで以下のスケジュールで進んできました。
ここにある「論点整理」が方向性を決める中核をなす議論であり、さらにそこからまとめあげられたのが「審議のまとめ」です。この一連の流れの中で時代的な背景が重要視されてきました。
近年、予測不可能な時代の代名詞として、VUCAという言葉が使われます。このVUCAとは、未来の予測が難しくなる状況のことを意味する造語で、以下の4つの単語の頭文字をつなぎ合わせたものです。
Volatility(変動性):予測ができず、変動が激しい状態
Uncertainty(不確実性):これからの時代の不確実さ
Complexity(複雑性):いくつもの要素が絡み合い、社会が複雑になっている状態
Ambiguity(曖昧性):過去のやり方では通用しない、絶対的な解決方法が見つからない、確固たるものがないといった、曖昧な状態
VUCA時代には、テクノロジーの進化やグローバル化、社会の変化、新型コロナウイルスの拡大など、予測不可能で大きな変化が起こっています。VUCA時代を生き抜くためには、変化に対応できる能力やスキルが必要になります。
知識情報の伝達をするだけの授業では、魅力的であり面白く好奇心を駆り立てられるものであったとしても、これからの時代を生きていくのに苦労してしまう子どもたちを育んでしまう、というのが主な視点と捉えられます。
アクティブラーニングのメリット
では、ここで、前節のVUCA時代の特徴と課題、それに対応したアクティブラーニングの重要性を整理してみましょう。
アクティブラーニング型の授業を実施すると、
①創造的な思考力や柔軟な対応力を養い
②情報収集・分析・活用の能力を高め
③他者の視点や感情を理解し、人間関係の質を向上する
ことができるといったメリットがあります。
逆の視点で考えると、いくら面白くて魅力的で知識を効率良く身に着けられ楽しめるレクチャー型の授業でも、教師からの一方通行の情報伝達では、こういったことは養えないことが見えてきます。
アクティブラーニングの主な手法
ではいよいよ、アクティブラーニングの具体的な手法を見ていきましょう。
ここでは、5段階の難易度でご紹介します。
①ラウンド・ロビン(難易度★)
ラウンド・ロビンは、参加者全員が順番にアイデアや意見を共有する活動です。この方法は、グループ内で平等な参加を促し、多様な視点を集めるのに効果的です。話し合いのトピックを設定し、一人ずつ順に意見を述べていきます。
②Think-Pair-Share(シンク・ペア・シェア、難易度★★)
まず個人で考え(Think)、次にペアでアイデアを共有(Pair)、最後にグループ全体またはクラスで意見を共有(Share)します。個々の思考とペア・グループ間のコミュニケーションのバランスが取れた活動です。
③ディスカッション(難易度★★★)
ディスカッションは、グループメンバーが特定のトピックや問題について話し合う活動です。意見の交換や議論を通じて、深い理解を促し、批判的思考能力を養います。準備としてトピックの選定や背景情報の提供が重要です。
④ジグソー法(難易度★★★★)
ジグソー法は、グループを「エキスパートチーム」と「ホームチーム」に分け、それぞれが異なる情報やスキルを学び、後にホームチームに戻って知識を共有します。協力と相互依存を促進し、全員が積極的に参加するよう設計されています。
⑤プロジェクト(難易度★★★★★)
プロジェクトは、一般的には、生徒が特定のテーマや問題に対して、長期間にわたって深く取り組むパターンが多く、研究、計画立案、実行、発表など、複数のステップを含みます。一方、1つの授業の中で実施する体験学習や発見学習のように、スポットで取り組むプロジェクトもあります。自律性、創造性、問題解決スキルなどを総合的に育成します。
アクティブラーニングの実践例
ではここで、アクティブラーニングの実践例を紹介します。
「英語」の実践例
所属:大阪高等学校
名前:芹澤 和彦(本コラム執筆者)
アクティブラーニングの活動:Think-Pair-Share(シンク・ペア・シェア)×ディスカッション
活動の大まかな流れ
①「コミュニケーションストラテジー」の口頭練習
まず、コミュニケーションストラテジーと呼ばれる、いくつかの表現を全体で練習する。例えば、“Could you say that again?(もう一度言ってもらえますか?)” “Did I make sense?(わかりましたか?)”など、コミュニケーションの沈黙を減らすための表現がある。
②テーマの提示と個人リサーチ
次にテーマを提示する。生徒たちの慣れ具合にもよるが「テーマを教員が1つ提示し、最初の生徒が話し始める問いを教員が提示する」という基礎の段階から、「授業内容に沿ったテーマで生徒が自由にディスカッションを行う」という自由度の高い段階となるまでには、いくつかのステップが必要となる。
テーマ提示後は、数分、生徒たちが個人でどのような話をするか練る時間をとる。
③ディスカッションの開始
生徒たちはペアで向かい合い、テーマについて問いかけ合ったり、意見を述べ合ったりする。
④中間リフレクション
数分後、教員の掛け声でディスカッションを中断し、今のディスカッションの振り返りを行う。例えば、「言いたかったけど言えなかった表現」「次意識したいこと」などを話し合う。(1分だけでも生徒たちは能動的に対話する様子が見られます。)
⑤2回目のディスカッションの開始
ペアを変えて再度ディスカッションを行う。1度目で話した内容をさらに深める機会になる。
⑥最終リフレクション
中間リフレクションと同様に、同じペアで振り返りを行う。「感想」ではなく「内省」であることが重要。
⑦全体シェア
最後に、リフレクションの内容を全体で共有する。
英語コミュニケーションの授業は、基本的には言語活動が中心となるので、アクティブラーニングの要素が強いと考えられます。しかし、“英語で”コミュニケーションをとる難しさをどう乗り越えていくかというのは重要な視点です。その点「コミュニケーションストラテジー」を学ぶ機会をつくったり、「リフレクション」の機会を多分に設け自分自身と向き合ったり、といった授業デザインが必要です。
アクティブラーニングのデメリットや課題
いくつかの実践例を見たところで、今度はデメリットや課題を考えてみましょう。
①授業準備の時間が増える
アクティブラーニングを実施するには、レクチャー型の授業よりも多くの準備が必要です。授業デザインをどうするか、どの教材が適切か、クラスでの活動をより良くファシリテートするために必要なことはなにか、これらを考えたり、学んだりするために、教師はより多くの時間と労力を使う必要があります。
教師としての課題は、いかに限られた時間の中でこういった準備ができるか、また、日常の中で常にアンテナを張り、どこに落ちているかわからないテーマを適切にキャッチすることだと考えられます。たくさんの人に出会い、常に学び続ける姿勢が重要です。
②スタイルが合わない生徒が存在する
アクティブラーニングは、生徒が自分から学んだり、他の生徒と協力したりすることに重点を置いています。しかし、これがすべての生徒に合うわけではなく、特に人と話すのが苦手な生徒や、そもそも自分で学ぶのが得意でない生徒にとっては、辛い時間が続くかもしれません。
その場合は、100か0かの視点ではなく、部分的にアクティブラーニングを導入し、年間を通して増やしていけるようにしましょう。この視点における課題は、そのときどきの生徒たちの状態に応じた適切な活動を設定することです。そのためには、生徒たちのことを多角的な視点で理解することが必要です。
③生徒の学習体験に差が出る
グループでの活動や協働作業が多いアクティブラーニングでは、生徒によって学びの経験が大きく異なることがあります。一部の生徒が活動を支配し、他の生徒があまり参加しない状況になる可能性があります。その差を埋めるためには、コミュニケーションスキルや言語技術そのものを伝える場面が必要になります。具体的には、生徒たちは「アイデアの出し方」や「議論のまわし方」といったスキルについて知る機会が必要ですが、ここは「総合的な探究の時間」との連携はもちろん、授業の中でも練習できるようにすることが課題となってきます。
アクティブラーニングを授業に取り入れるための注意点
では、こういったデメリットや課題をクリアしていくためポイントや注意点をご紹介します。
①小さく始める
いきなり授業のすべてをアクティブラーニングに変更させようと思っても、教師にとっても生徒にとっても負担が多くなります。それで「上手くいかないじゃないか」「自分には無理だ」とあきらめてしまってはもったいないですし、今の時代背景に必要な力を育む機会が作れなくなります。
このような時は、大規模な変更を試みる前に、小さなアクティブラーニングの活動から始めてみましょう。例えば、授業の一部を難易度の低いラウンド・ロビンやThink-Pair-Share(シンク・ペア・シェア)にして、慣れてきたころにグループディスカッションやショートプロジェクトを組み込むことで、生徒も教師も負担なく進めることができます。
②生徒の意見を取り入れる
アクティブラーニングについて考える際に注意したいことは、これが教授法だけの話ではなく学習法についても含意された言葉であると認識しておくことです。どのように教えるか、という視点で教授法にばかり目がいくと、生徒のことを置いてけぼりにしがちです。
本来、授業は教師だけのものではなく、生徒ひとりひとりのものでもあるはずです。生徒の興味やニーズを気軽に生徒に聞いて、授業デザインをより良くしていくことが大切です。生徒の中には、よく周りを見ていて、置いてけぼりになっている子がいないか把握している子が必ずいます。生徒と共により良い授業をつくっていきましょう。
③明確な目的の認識
アクティブラーニングの活動を成功させるには、生徒自身がその活動の目的を明確に認識する必要があります。口頭で目的を伝える場面だけではなく、手順の説明の後に「何を目的としている活動でしょう?」とペアで少し考えてもらったり、生徒自身が目的を設定できるような場面をつくったり、といった工夫が必要となります。
同時に、リフレクションの際に自己評価をするタイミングを設けるなど、生徒たち自身が自己の学びに自覚的になり、責任を持てるような機会を設けていきましょう。
すべての授業でアクティブラーニングが機能するわけではありません。生徒の反応や学習の進捗に応じて、授業スタイルを柔軟に変えることができる教師であることが求められます。
これらの注意点やポイントを意識することで、アクティブラーニングのデメリットや課題を克服し、生徒にとってより効果的な学習経験を提供することが可能になります。
常に改善を目指し、生徒の学習を最大限に引き出すための方法を模索し続けましょう。
ICT教育との親和性
最後に、アクティブラーニングの実践における、ICTの活用について考えてみましょう。アクティブラーニングとICT教育は、相互に強化し合う関係です。アクティブラーニングは、生徒が主体的に学習に参加し、協力しながら知識を深める方法です。ICT教育ツールは、これらのプロセスをサポートしてくれるでしょう。
例えば、デジタルノート機能のあるツールを活用すれば、生徒各自やグループで調べたことをデジタルノートにまとめ、クラウドベースの共有機能を使って、クラス全体にアイデアを発表することもできます。アクティブラーニングの授業に積極的に参加できないタイプの生徒でも、オンラインであれば、自分の意見を発表・共有することに抵抗が少ないこともあります。冒頭でご紹介した「生徒が学びに積極的なあり方を示す」状態の実現に大いに役立つでしょう。
CASIOでは、ICTを活用したスムーズな授業やアクティブラーニングの実践を支援するため、デジタルノート機能や課題共有に活用できる授業支援機能が入った『双方向授業活性化アプリClassPad.net』のトライアル版をご用意しております。ぜひご活用ください。
■著者・監修者
芹澤 和彦
高校英語教員/教育クリエイター
講演、企業研修、教員研修、イベント運営を多数実施。英語教育ではEF Excellent Award in Language Teaching 2019 Japan Finalist 第2位の表彰、アントレプレナーシップ教育ではNPO法人BizWorld Japan アドバイザー、ICT教育では2019~2022 Microsoft Innovative Educator Expertの認定を受けるなど、ジャンルを越えて教育実践を展開している。探究やクリエイティブ・ラーニング型授業の実践家である一方で、教員をしながら個人事業として起業。学校と社会の繋がりをつくる多様な活動をしている。
著書『中学校・高等学校 4技能5領域の英語言語活動アイデア』(明治図書)。
全国の中学校・高等学校で導入されている
ICT教育をサポートする、カシオの「ClassPad.net」
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