アクティブラーニングの授業実践事例
【現場の先生視点でご紹介】
【著者・監修者】
芹澤 和彦
高校英語教員/教育クリエイター
生徒が能動的に学び、学習テーマに関して興味が喚起しやすかったり、知識の習得が深まったりといったメリットがある「アクティブラーニング」。教育の新たな波として脚光を浴び、現在は「主体的・対話的で深い学び」と言葉上変換され学校教育界に浸透していますが、教育の現場で日々奮闘する先生の中には授業にどのように取り入れたら良いのかよくわからない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで本コラムでは、実際に高校の先生が実践している具体的な授業例をご紹介します。
アクティブラーニングの主な手法
ご紹介する授業実践例をより深く理解いただくために、まずはアクティブラーニングの具体的な手法を簡単に解説します。
①ラウンド・ロビン(難易度★)
ラウンド・ロビンは、参加者全員が順番にアイデアや意見を共有する活動です。この方法は、グループ内で平等な参加を促し、多様な視点を集めるのに効果的です。話し合いのトピックを設定し、一人ずつ順に意見を述べていきます。
②Think-Pair-Share(シンク・ペア・シェア、難易度★★)
まず個人で考え(Think)、次にペアでアイデアを共有(Pair)、最後にグループ全体またはクラスで意見を共有(Share)します。個々の思考とペア・グループ間のコミュニケーションのバランスが取れた活動です。
③ディスカッション(難易度★★★)
ディスカッションは、グループメンバーが特定のトピックや問題について話し合う活動です。意見の交換や議論を通じて、深い理解を促し、批判的思考能力を養います。準備としてトピックの選定や背景情報の提供が重要です。
④ジグソー法(難易度★★★★)
ジグソー法は、グループを「エキスパートチーム」と「ホームチーム」に分け、それぞれが異なる情報やスキルを学び、後にホームチームに戻って知識を共有します。協力と対話を促進し、全員が積極的に参加するよう設計されています。
⑤プロジェクト(難易度★★★★★)
プロジェクトは、一般的には、生徒が特定のテーマや問題に対して、長期間にわたって深く取り組むパターンが多く、研究、計画立案、実行、発表など、複数のステップを含みます。一方、一つの授業の中で実施する体験学習や発見学習のように、スポットで取り組むプロジェクトもあります。自律性、創造性、問題解決スキルなどを総合的に育成します。
アクティブラーニングについて、より詳しく知りたい方はこちらのコラムもご覧ください。
アクティブラーニングとは?教師の視点で紹介するメリットやデメリット、授業への活用方法
アクティブラーニングの実践事例
ここからは、これまで比較的講義形式になりがちだった主要5教科において、アクティブラーニングの実践をされてきた先生方の授業例をご紹介します。
お名前:山科 祐一 先生
手法:ラウンド・ロビン×ディスカッション
活動の大まかな流れ
評論文の読解
①個人で問いづくり
プリントで配布された評論文を生徒各自が読み、不明点に線を引きプリント内に質問を記載。
②問いへの解答
プリントを後ろの席の生徒に回す。回された生徒は記載された質問の中で分かるものを回答。
さらに後ろの席に回し質問に回答。一人目の回答者と同じであればその旨を、異なる場合は自分の意見を回答。
さらに後ろの席に回し、3人目は前の2名が回答できなかった質問を優先的に回答。
③解答の読解
元の生徒にプリントを戻し、各自が自分の疑問に対するクラスメイトの回答について読み込む。
④ディスカッション
4人グループをつくり、各々のプリントを基に疑問を解決すべくディスカッションする。
⑤Good Q&Aコンテスト
優れたQ&AをGoogleドキュメントの共同編集を用いて、クラス全体に共有。
⑥リフレクション
それらを読みながら、各自Googleスライドに振り返りを入力し、クラス全体で共有。
山科先生は教科書の編集委員も務めている先生であり、授業実践も多様な引き出しをお持ちです。今回実践例としてご紹介いただいた活動の流れを知ることで、レクチャー型になりやすい評論文を読む読解の授業をいかにアクティブにできるか、大きなヒントとなるのではないでしょうか。
お名前:中村 亮介 先生
手法:プロジェクト(疑似体験学習)
活動の大まかな流れ
「数学A」確率の期待値
①期待値の設定
生徒がグループに分かれ、それぞれが「カジノ」になり、サイコロを2個振るというルールとする。
必ず賞金の期待値より参加費の方が高くなるよう、賞金と参加費を設定する。
②期待値の共有
クラスに全班の参加費と賞金を掲示。生徒が他の班の期待値を計算する。
③作戦会議
各班は、他の班のカジノに10回挑戦することができる。期待値を計算した後、どこの班に挑戦しに行くかを作戦会議して決める。※一つのカジノには、最大3回まで挑戦できるとする。
④ゲームスタート
実際にゲームを行い、カジノと参加者でどれだけ稼げるかを競う。※お金は数字上のみ。
⑤まとめ
まとめとして「カジノとして、参加費と期待値それぞれが挑戦回数にどう影響したか」考える。
プロジェクトというと、学期を越えた長期間のものもあれば、単元のまとめとして一つの授業で実施する場合もあります。中村先生のユニークな実践は、後者のプロジェクトであり、数学の問題が現実社会に結びつく体験学習と考えられます。社会科との教科横断型の視点も見えるとても面白い活動です。
お名前:合田 意 先生
手法:ジグソー法×ディスカッション
活動の大まかな流れ
教科書内容の協働的履修と深め合い
①テーマの提示とペアでの分担
授業で進む予定の教科書のページを生徒へ提示する。 (4~8ページ程度) 生徒がペアで話し合い、【エキスパート】と【ホーム】の分担を決める。
②【エキスパート】グループに分かれ、教科書の内容を要約
担当が同じ人同士でグループになり、自分たちの担当箇所の教科書内容をタブレットに要約していく。
③【ホーム】グループペアに説明
元のペアに戻り、要約した教科書の内容を1~2分程度でペアに説明する。
④教師からの発問
教科書の内容をさらに深めるような発問を教師から行う。生徒はそれに対して調べたり、考えたりして自分なりの答えをまとめていく。
⑤ペアで意見交換
発問に対する答えをペアで話し合う。疑問点を共有し議論する。
⑥教師からの解説
発問に関する解説を行い、関連する情報を提供する。
⑦リフレクション
生徒は授業を振り返り、今後の生活に活かしていきたいことなどをまとめてタブレット上で提出する。
ジグソー法は決して大掛かりな手法ではなく、合田先生の事例のようにペアワークを少し発展させるような形でも実施できます。合田先生の実践では、簡単なジグソー法で表面的に理解を深めた後、教師からの発問によりさらに思考を深めるといった工夫をされています。知識を深めるアクティブラーニングのヒントが詰まっています。
お名前:小林 孝由 先生
手法:プロジェクト
活動の大まかな流れ
模擬国連(「公共」国際政治:核軍縮)
①政策立案[問題分析力]
核軍縮の背景について調べ、自国の政策を考える際に、その問題の本質を捉え、何を達成する必要があるのかを考え、政策立案シートにまとめる。
②演説[表現力]
会議の冒頭に各国が2分間の演説を行う。担当国の利益に直結するため、核軍縮に対する立場をどのように伝えるのが効果的かを考え、表現する。
③交渉[課題解決力]
自国の国益の達成だけでなく、国際社会の利益とのバランスも考え、意見や状況の異なる立場の国や、同じ意見や似た状況の国と交渉し、多くの国が合意できる決議案を作成する。
これらを通じて、世界のあるべき姿やそれを実現するために何が必要かを考え、国際的な視野を養う。
小林先生が実践された模擬国連は、ディスカッションやディベート、プレゼンテーションを包括したプロジェクトです。規模に大小はありますが、どんな模擬国連もそのプロセスを通して生徒たちはアクティブラーナーに変容することでしょう。
名前:芹澤 和彦(本コラム執筆者)
手法:Think-Pair-Share ×ディスカッション
活動の大まかな流れ
コミュニケーションストラテジーの練習
①「コミュニケーションストラテジー」の口頭練習
まず、コミュニケーションストラテジーと呼ばれる、いくつかの表現を全体で練習する。例えば、“Could you say that again?(もう一度言ってもらえますか?)” “Did I make sense?(わかりましたか?)”など、コミュニケーションの沈黙を減らすための表現がある。
②テーマの提示と個人リサーチ
次にテーマを提示する。生徒たちの慣れ具合にもよるが「テーマを教師が一つ提示し、最初の生徒が話し始める問いを教師が提示する」という基礎の段階から、「授業内容に沿ったテーマで生徒が自由にディスカッションを行う」という自由度の高い段階となるまでには、いくつかのステップが必要となる。
テーマ提示後は、数分、生徒たちが個人でどのような話をするか練る時間をとる。
③ディスカッションの開始
生徒たちはペアで向かい合い、テーマについて問いかけ合ったり、意見を述べ合ったりする。
④中間リフレクション
数分後、教師の掛け声でディスカッションを中断し、今のディスカッションの振り返りを行う。例えば、「言いたかったけど言えなかった表現」「次意識したいこと」などを話し合う。(1分だけでも生徒たちは能動的に対話する様子が見られます。)
⑤2回目のディスカッションの開始
ペアを変えて再度ディスカッションを行う。1度目で話した内容をさらに深める機会になる。
⑥最終リフレクション
中間リフレクションと同様に、同じペアで振り返りを行う。「感想」ではなく「内省」であることが重要。
⑦全体シェア
最後に、リフレクションの内容を全体で共有する。
英語コミュニケーションの授業は、基本的には言語活動が中心となるので、アクティブラーニングの要素が強いと考えられます。しかし、“英語で”コミュニケーションをとる難しさをどう乗り越えていくかというのは重要な視点です。その点「コミュニケーションストラテジー」を学ぶ機会をつくったり、「リフレクション」の機会を多分に設け自分自身と向き合ったり、といった授業デザインが必要です。
まとめ
アクティブラーニングは、現代の教育には欠かせない手法です。様々な手法が存在し、難易度や目的に応じて選択できます。今回のコラムでは、主要5教科における実践例をご紹介しました。
これらの実践例を通じて、アクティブラーニングの柔軟性と豊かな可能性が垣間見えます。また、ICTとの連携がアクティブラーニングをさらに効果的にすることも示唆しています。
最終的には、生徒が能動的に学び、協力し合いながら深い理解を得るために、教育者が様々な手法を工夫して導入することが重要です。
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■著者・監修者
芹澤 和彦
高校英語教員/教育クリエイター
講演、企業研修、教員研修、イベント運営を多数実施。英語教育ではEF Excellent Award in Language Teaching 2019 Japan Finalist 第2位の表彰、アントレプレナーシップ教育ではNPO法人BizWorld Japan アドバイザー、ICT教育では2019~2022 Microsoft Innovative Educator Expertの認定を受けるなど、ジャンルを越えて教育実践を展開している。探究やクリエイティブ・ラーニング型授業の実践家である一方で、教員をしながら個人事業として起業。学校と社会の繋がりをつくる多様な活動をしている。
著書『中学校・高等学校 4技能5領域の英語言語活動アイデア』(明治図書)。
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