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  ICT教育・GIGAスクール構想関連コラム

PBLとは?問題解決型/課題解決型の違いや
探究との関連性を解説

PBLとは?問題解決型/課題解決型の違いや 探究との関連性を解説
著者・監修者 芹澤 和彦

【著者・監修者】
芹澤 和彦
高校英語教員/教育クリエイター

現代の教育において、「PBL(Problem Based Learning / Project Based Learning)」という学びのアプローチが再び注目を集めています。その背景には、学習者が主体的に課題に向き合い、協働や探究を通じて深い学びを実現することへの期待が高まっていることがあります。特に、21世紀に求められる「問題解決能力」や「クリティカルシンキング」、さらには「社会的な文脈での実践力」を育成する上で、PBLはその有効性を発揮しています。

探究学習で取り上げられることも多いPBL(Problem Based Learning / Project Based Learning)ですが、そもそもPBLとは何か、二つのPBLの違い、そして授業に落とし込む際のポイントについて疑問をお持ちの先生も多いと思います。

このコラムでは、PBLの理論的な背景としてジョン・デューイの探究理論とキルパトリックのプロジェクト・メソッドを紐解きながら、その本質を探ります。また、Problem Based Learning(問題解決型学習)Project Based Learning(課題解決型学習)の違いを具体例と伴に紹介し、両者が現代の教育に与える示唆についてご紹介します。教育の未来を形作るこの学びの本質を探りながら、授業実践のヒントを得ていきましょう。

PBLとは

現在、大学など高等教育においてPBLはある程度広く認知されています。初等・中等教育ではまだまだ浸透しているとは言えない現状ですが、最近ではハイテックハイ※などの影響もあり、PBLは改めて注目を浴びています。一方で、PBLという言葉そのものについての認識は追いつかないまま、「プロジェクト」的な学びを総じてPBLと呼んでしまっている印象もあります。
PBLを正しく理解し教育活動に取り入れていくために、まず2種類のPBLについて整理することから始めてみましょう。

PBLとは

ここでは、溝上慎一・成田秀夫編による書籍『アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習』を参考にご紹介します。

※ハイテックハイ:アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴにある公立の学校。探究の先端校として知られ、PBLをベースとした授業スタイルで世界から注目を集めている。

①Problem Based Learning(問題解決型学習 / 問題基盤型学習)

PBLの一つ目は、Problem Based Learningです。この学びは、問題解決型学習や問題基盤型学習と呼ばれ、実世界で直面する問題の解決を通して、基礎と実世界とを繋ぐ知識の習得、問題解決に関する能力や態度等を身に付ける学習のことを指しています。

1965年にカナダのマクマスター大学の医学部で、従来の「受動的で退屈な講義形式」に代わる、統合的で学生主体の学習方法を目指して始まりました。

Problem Based Learning(問題解決型学習 / 問題基盤型学習)

②Project Based Learning(課題解決型学習 / プロジェクト型学習)

PBLの二つ目は、Project Based Learningです。こちらは、実世界に関する解決すべき複雑な問題や問い、仮説を、プロジェクトとして解決・検証していく学習のことを指しています。学生の自己主導型の学習デザイン、教師のファシリテーションの基、問題や問い、仮説などの立て方、問題解決に関する思考力や協働学習等の能力や態度を身に付けるものです。

探究の起源として頻繁に参照されるジョン・デューイの弟子であるキルパトリックが提唱したプロジェクト・メソッドが起源だという説が多いようです。

Project Based Learning(課題解決型学習 / プロジェクト型学習)

二つのPBL の共通点と相違点を簡単に整理してみましょう。

共通点

●実世界の問題解決に取り組むことを通して、問題解決能力を養うことを目指している
●解が一つとは限らないため、自己主導型で協働的に解を導くことが求められる

相違点

Problem Based Learning:教師が設定した問題を生徒が解決していくプロセスを重視する
Project Based Learning:生徒が主体的に課題を設定し、成果物を仕上げるまでの全体を管理する

Problem Based Learning
(問題解決型学習 / 問題基盤型学習)の具体例

※以下、Problem Based Learning(問題解決型学習 / 問題基盤型学習)をPbBLと表記

「教師が設定した問題を生徒が解決していくプロセスを重視する」PbBLの具体例について考えていきましょう。
例えば、地域の河川において「川の水質悪化」という問題があったとします。そこで、理科の授業で「川の水質悪化の原因」をテーマとして捉え、授業を実施します。
PbBLの中では、生徒が以下のプロセスで学びを深めていくことが考えられます。

1.教師が提示する「水質データ」や「地域の環境情報」を基に生徒がディスカッションする。

2.生徒が仮説を立てて調査を進め、原因を特定する。

3. 生徒達のディスカッションの結果として、解決策(例: ゴミの分別や下水道整備の提案)を提示する。

Project Based Learning
(課題解決型学習 / プロジェクト型学習)の具体例

※以下、Project Based Learning(課題解決型学習 / プロジェクト型学習)をPjBLと表記

次に、「生徒が主体的に課題を設定し、成果物を仕上げるまでの全体を管理する」PjBLの具体例を考えていきましょう。
先ほどは理科でしたが、そこでさらに興味を持った生徒が「川を守りたい!」という気持ちを抱いたとします。理科の授業内でも構いませんが、時間的にも制限があるため、ここでは総合学習といった、より個人やグループで時間をまとまって使いやすい場面を想定します。生徒が、川を守るためのプロジェクトを立ち上げ、以下のような流れでプロジェクトを進めます。

1. 生徒が自分たちでプロジェクト計画を立案する。
(例: 水質調査、地域住民へのインタビュー、改善案のポスター制作)。

2.川の現地調査や地域住民との意見交換を通じて情報を収集する。

3. ポスターセッションで提案を発表し、学校や地域の関係者に共有する。

二つのPBLの違い

以上のように、PbBLは教師が設定した問題を生徒が解決していくプロセスを重視するのに対し、PjBLは生徒が主体的に課題を設定し、プロジェクトを通じて成果物を作成することを重視しています。このように、それぞれのアプローチは異なる焦点を持ちながら、共に実世界の問題解決能力を育成することを目指しています。

では、改めてPBLの相違点を細かく見てみましょう。先ほど紹介した『アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習』では、“違いを積極的に見定めようとすれば”と前置きをしたうえで、相違点を下記のように整理しています。

  Problem
Based Learning
Project
Based Learning
  教師が設定した問題を生徒が解決していくプロセスを重視する 生徒が主体的に課題を設定し、成果物を仕上げるまでの全体を管理する
問題の設定主体 教師が設定した問題やシナリオを基に学習を進めることが一般的。 教師がテーマを与える場合もあるが、具体的な問いや仮説は生徒自身が設定することが多い。
重視するポイント 問題解決のプロセスを通じたスキルや態度の育成を重視( プロセス重視型)。 最終的な成果物( レポート、作品など)の完成を重視(プロダクト重視型)。
支援者の役割 テューターが中心となり、生徒の自己主導型学習をサポート。 教師がファシリテーターやコーチとして支援。場合によっては外部支援者やアシスタントも活用。
カリキュラムの位置づけ カリキュラムの中心に位置づけられることが多い。 カリキュラムの中心にも補足的活動にも対応可能。柔軟性が高い。
問題解決の時間的展望 現在進行中の問題に焦点を当てることが多い。 未来を見据えた社会的課題の解決を目指すことが多い。
時空間における制限 数回の授業内やカリキュラム内で完結することが多い。 長期間(学期やコースを超える)や広範囲(地域や実践現場を含む)で実施されることが多い。

PBLと探究との関連性

ここからはPBLと探究との関連性を見ていきましょう。
探究(探究的な学び)という教育理念は、現在高校教育において「総合的な探究の時間」や「地理探究」「理数探究」などの授業カリキュラムとして落とし込まれています。ただ、教育の現場で日々奮闘する先生の中には、その実践に悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。例えば、与えられた課題に対して生徒が受動的に反応している場合、真の探究が行われているのか疑問に思うことがあるかもしれません。

PBLと探究との関連性

PBLは探究という教育的な理念を教育現場で実践する具体的な形式であり、生徒が実際の問題に取り組むことで主体的に学ぶ機会を提供します。両者の成り立ちを知り本質を理解することが、授業実践の「悩み」を解消する糸口となるはずです。
そこで、二つのPBLの源流とも言えるプロジェクト・メソッドの提唱者であるキルパトリックの考え方、そしてその師匠とされるジョン・デューイの探究の定義を紐解きながら、現代の授業実践のヒントを掴んでいきましょう。

ジョン・デューイの探究の定義

ジョン・デューイは、1938年に発表した著作『LOGIC, THE THEORY OF INQUIRY』の中で、「探究とは、不確定な状況を指導的または制御的に変換し、確定的で統一された状況にすること」と定義付けています。ここでの「指導的」や「制御的」という言葉は、探究する者が目的意識を持って行動し、状況を秩序立てて進めることを意味しています。そのプロセスでは、観察や推論などの手段を用いて混乱した状況の解決に向けて調整することが求められます。デューイはこの「不確定→確定」への移行を、六つの具体的なプロセスで説明しています。

① 探究の前提条件:不確定な状況
探究は、不確定で混乱した状況を認識することから始まる。

② 問題の設定
状況の観察を通じて、解決のための具体的な問題を設定する。

③ 問題解決の確定
観察や仮説の検証を繰り返し、問題解決に向けたアイデアを具体化する。

④ 推論
提案やアイデアを論理的に検討し、それらが適切であるかどうかを確認する。

⑤ 事実と意味の操作的性質
観察や実験を通じて得られた事実を基に、仮説を修正しながら解決策を構築する。

⑥ コモンセンスと科学的探究
探究は、日常生活での課題解決(例:どの道を通るべきか)から科学的な課題解決(例:実験による仮説の検証)まで、観察・仮説・検証というプロセスを基盤として展開される。

ポイントは、アイデアを出したり仮説を設定したりする「観念的操作」と、観察や実験を通して実際の状況を整理する「実存的操作」を行うことです。
例えば、「学校の図書室の利用が少ない」という問題を例にとってみましょう。

不確定な状況
なぜ利用が少ないのか明確ではない(理由が不確定であり、解決すべき問いが浮かび上がる)。

指導的・制御的な変換
利用者にアンケートを実施し(実存的操作)、得られたデータを基に「もっと便利な本の検索方法が必要」という仮説を立てる(観念的操作)。

確定的で統一された状況
本の検索システムを改善し、利用者が増える(探究の結果)。利用状況のデータを継続的に観察し、図書室が本来の目的を果たしていると確認できる段階。

これがデューイの探究の考え方です。デューイの弟子とされるキルパトリックは、この考え方をさらに発展させ、プロジェクト・メソッドとして提唱しています。

キルパトリックのプロジェクトメソッド

キルパトリックは、デューイの探究理論を教育実践に具体化する形で、プロジェクト・メソッドを構想しました。1918年の論文"The Project Method"では、「プロジェクトとは、全心的な目的的活動が社会的環境において行われること」と定義しています。この定義には、以下の重要な要素が含まれています。

1. 「全心的」(wholehearted)
学習者が心から興味を持ち、主体的に取り組むこと。これは、デューイが探究の出発点として重視した「不確定な状況への気づき」に対応します。

2. 「目的的」(purposeful)
活動が明確な目的を持っていること。これは、デューイの「問題の設定」および「問題解決の確定」のプロセスと共通しています。

3. 「社会的環境において」(in a social environment)
活動が実社会との関連性を持ち、他者との協働的な実践として行われること。これは、デューイが重視した「コモンセンス」の文脈に沿うものです。

キルパトリックは、これらの要素を具現化するために、前述の4つのタイプのプロジェクトを提案しました。各タイプは、デューイの探究プロセスの異なる側面を強調しています。

Type 1(生産型):
プロジェクトの目的が「何かを作り出すこと、あるいは実行すること」

例:庭に花を植える、物語を書く、演劇を上演する
最も典型的なプロジェクトタイプとされる。

Type 2(消費者型):
「美的経験を味わうこと」が目的

単なる受動的な鑑賞ではなく、その経験を適切に評価し、味わう態度が重要
例:交響曲を鑑賞する、絵画を味わう、文学作品を深く読み込む

Type 3(問題型):
「知的な困難や問題を解決すること」が目的

理論的思考や推論を必要とする
例:なぜ露が降りるのかを考える、歴史的な出来事の因果関係を探る

Type 4(訓練型):
「特定の知識やスキルを習得すること」が目的

他のタイプのプロジェクトを実施する上で必要となる基礎的な能力の獲得
例:楽器の練習、外国語の学習、計算練習

このように、プロジェクト・メソッドは、デューイの探究の理論を教育実践の文脈に置き換え、具体化したものと理解することができます。両者に共通するのは、学習者の主体的な問題解決を通じて、知識や技能を獲得していくという考え方です。

まとめ:【PBLの本質】教育現場での実践に活かすために

これまで見てきたように、PbBLPjBLは、それぞれに特徴を持ちながらも、デューイの探究理論とキルパトリックのプロジェクトメソッドという共通の理論的基盤を持っています。

PBLの本質的な要素は以下の3つに整理できます。

①「不確定な状況から確定的な状況への移行」を重視する

PbBLでは主に教師が設定した問題(不確定な状況)に対して、PjBLでは主に学習者自身が見出した課題(不確定な状況)に対して、それぞれ解決を目指していきます。この過程は、デューイが探究の本質として示した「指導的または制御的な変換」そのものであり、両者とも学習者による能動的な問題解決を通じて、状況を確定的なものへと変えていくことを目指しています。

「不確定な状況から確定的な状況への移行」を重視する

➁「全心的な関与」を基盤としている

キルパトリックが強調した「全心的」という要素は、PbBLにおける問題への深い考察や、PjBLにおける主体的な課題設定として具現化されています。これは単なる形式的な活動ではなく、学習者が心から問題や課題に向き合うことの重要性を示しています。

「全心的な関与」を基盤としている

③「社会的文脈における学び」を重視する

PbBLでは実世界の問題(problem)を扱い、PjBLでは実社会での活動(task)を通じて学びを展開します。これは、キルパトリックが示した「社会的環境において」という要件と、デューイが示した「コモンセンス」の重視に対応しています。

「社会的文脈における学び」を重視する

このように見てくると、PBLの本質とは、「学習者が実社会の文脈の中で、全身全霊をかけて不確定な状況に向き合い、それを確定的な状況へと変換していく営み」と言えるでしょう。

最後に、ここに近づくための3つの重要な要素を取り上げたいと思います。

①探究的要素
不確定から確定への移行を、観察・仮説・検証のプロセスを通じて実現する

➁実践的要素
実社会の文脈の中で、具体的な問題解決や成果の創出を目指す

③協働的要素
他者との対話や協働を通じて、より深い理解や創造的な解決を導き出す

このような本質を持つPBLは、現代の教育が目指す「探究(探究的な学び)」や「主体的・対話的で深い学び」を実現する上で、重要な示唆を与えてくれます。それは、100年以上前にデューイとキルパトリックが示した教育の理想が、現代においても色あせることなく、むしろその重要性を増している証と言えるでしょう。

【参考文献】
溝上慎一・成田秀夫 編(2016)『アクティブラーニングとしてのPBL と探究的な学習』東信堂
John Dewey(1938)『Logic: The Theory of Inquiry』
William Heard Kilpatrick (1918)『The Project Method』

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著者・監修者 芹澤 和彦

■著者・監修者
芹澤 和彦
高校英語教員/教育クリエイター

講演、企業研修、教員研修、イベント運営を多数実施。英語教育ではEF Excellent Award in Language Teaching 2019 Japan Finalist 第2位の表彰、アントレプレナーシップ教育ではNPO法人BizWorld Japan アドバイザー、ICT教育では2019~2022 Microsoft Innovative Educator Expertの認定を受けるなど、ジャンルを越えて教育実践を展開している。探究やクリエイティブ・ラーニング型授業の実践家である一方で、教員をしながら個人事業として起業。学校と社会の繋がりをつくる多様な活動をしている。
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