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  ICT教育・GIGAスクール構想関連コラム

【主催】未来の先生フォーラム
慶應義塾大学名誉教授、PEN言語教育サービス代表 田中茂範 氏 によるオンラインセミナー

誰も置き去りにしない「安心」と「内省」の探究学習
〜探究学習のカリキュラム設計に向けて〜

本記事では、長年にわたり探究学習や言語活動の理論と実践を深めてきた慶應義塾大学名誉教授 田中茂範 氏によるオンラインセミナー【誰も置き去りにしない「安心」と「内省」の探究学習〜探究学習のカリキュラム設計に向けて〜】の内容をご紹介します。

カリキュラムを「教える内容の順序立て」ではなく「学習者の探究プロセスを支援し、導くための柔軟な学習設計」として捉えている田中教授。「探究に効果はあるのか」という問題は「探究のやり方」に尽きるという視点から、探究活動の本丸であるカリキュラムデザインに着目し、「生徒一人ひとりの多様な力を引き出し、誰も置き去りにしない学び」の実現に向けたヒントをお届けします。

【登壇者】

田中茂範(たなか・しげのり)
慶應義塾大学名誉教授、PEN言語教育サービス代表

コロンビア大学大学院で博士課程(教育学博士)を修了後、茨城大学で6年間、慶応大学で30年間教鞭をとる。言語論、教育論(英語、探究、PBL)、意味論が専門で、大学・大学院では「言語コミュニケーション論」「認知意味論」「教育の意味空間分析」などの授業科目を担当。書籍は、専門書・一般書を含め、100冊を超える。文科省検定教科書(英語コミュニケーション)の代表編者を30年近く務めていることから、指導要領に示されるような我が国の教育動向にも詳しい。現在は、PEN言語教育サービスの代表として、《探究×英語×ICT》に軸足を据えた理論研究と実践活動(教材開発、プログラム開発、出張授業)を行っている。教育関連会社とのコラボも多い。

はじめに

タイトルにもあります「誰も置き去りにしない」という言葉は、SDGsでも掲げられている“Leave No One Behind”という考え方につながっています。受験の世界では「落ちこぼれ」という言葉が使われてきましたし、最近では「浮きこぼれ」という言い方もあるようです。しかし、探究という学びは、そもそもダイバーシティ、多様性を包み込む性格を持っています。むしろ、多様性が探究を豊かにすると言ってもよいのではないでしょうか。

一人ひとりがそれぞれの個性を持っていて、その個性が集まることで集合知が生まれる。答えのない問いに向かう探究活動の力は、まさにこうした多様性の中から生まれてくるものです。そう考えると、「誰も置き去りにしない」という言葉は、探究と非常に相性がよいと私は思っています。

なぜ今、探究力が必要なのか

なぜ探究力が求められるのか。その背景には、大きく三つの理由があると考えています。

一つ目は、OECDなどでも言われているように、私たちが生きている世界がVUCA、すなわちVolatile(変動性)・Uncertain(不確実性)・Complex(複雑性)・Ambiguous(曖昧性)の時代にあるということです。要するに、不確かで、確実な見通しを持ちにくい社会に私たちは生きているということです。

二つ目は、そうした世界の中で、地球規模の困難な課題に直面していることです。たとえば、貧困、気候変動、高齢化社会などです。こうした問題を、リッテルとウェーバーは1973年に“Wicked Problems”と呼びました。Wickedは「邪悪な」という意味ですが、ここでは「厄介で、手強い問題」という意味合いで捉えるとよいでしょう。定義すること自体が難しく、一つの正解がなく、しかも一つの解決策が新たな問題を生み出してしまう。私たちは、まさにそういう問題に直面しているわけです。

文部科学省による「キャリア教育」の定義

三つ目は、AIの急速な進展です。AIは文字通り日進月歩で進化しており、危機感と同時に期待感もあります。特に昨年以降、推論型AIは大きく飛躍しました。もはやAIは単なるツールではなく、エージェントとして人間と協働する存在になりつつあります。エージェンティックAIという言い方もされますし、AIを搭載したヒューマノイドロボットも、ここ数年でさらに増えていくでしょう。

また、AIはマルチモーダル化が進み、文字だけでなく視覚や聴覚にも対応するようになっています。いずれは量子コンピュータとの融合も進むかもしれません。こうしたAIが人間とコラボレーションすることで、医療、環境、企業活動、教育、日常生活など、あらゆる場面で効率化と問題解決に寄与する可能性があります。

その一方で、人間が意図しない判断をAIが行ってしまうアラインメント問題もあります。特に兵器に搭載された場合、AIが独自に攻撃判断をする危険性は深刻です。また、アルゴリズムによって偏った情報が増幅されるエコーチェンバー問題もあります。さらに、AI競争の勝者が情報を独占してしまうことによる民主主義の危機も懸念されています。

このような状況を踏まえると、どのような学びが必要かが見えてきます。

「生きる力」と探究――答えのない問いに向き合う学び

これまでの学びの中心には、教科書の中に正解があり、その内容を覚え、応用し、知識を増やしていくという世界がありました。これはもちろん大切な学びです。

しかしもう一つ、答えのない状況の中で、自分で考え、判断し、行動する力が求められる学びがあります。何が起こるか分からない世界で、自ら問いを見つけ、自分なりに意味ある答えを探っていく力です。

このことは、「生きる力」という言葉と深く響き合っています。1996年7月の中央教育審議会答申では、変化の激しい社会を生きる子どもたちには、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、問題を解決する資質や能力が必要であると示されました。私は、この中にすでに探究の萌芽があったと思っています。

その2年後、学習指導要領の中で「生きる力」が明確に打ち出され、その後の改訂を経ても一貫して継承されてきました。現在の学習指導要領でも、「生きる力」は教育の根幹に位置づけられていると思いますし、新しい指導要領でもおそらく継承されるでしょう。

では、「生きる力」とは何か。私はずっと、これは「たくましさ」と「しなやかさ」だと言い続けてきました。どのような状況に直面しても、自分で考え、判断し、行動できる。これは自己表現力であり、責任ある行動につながる「たくましさ」です。一方で、変化に対応し、違いと向き合い、その違いを豊かな多様性へと変えていく力が「しなやかさ」です。差別や偏見のもとにもなりうる「違い」を、豊かさに転換していく力とも言えるでしょう。

この「たくましさ」と「しなやかさ」こそが、生きる力の別の言い方なのではないかと思います。

文部科学省による「キャリア教育」の定義

「メソッドなき探究」は迷走する――成果を生む探究の条件

生きる力を育成するために必要なのが、「主体的・対話的で深い学び」です。私は、そのための学習活動がまさに探究だと思っています。
ただ現状を見ると、2022年頃から高等学校で本格的に探究が始まったものの、この3年間は手探りの時期、模索の時期だったのではないかと思います。生徒中心の学びとして、生徒がやりたいことをやり、好きなように考え、自分で答えを見いだす。そうした方向で探究は進められてきました。

しかし、メソッドなき探究は迷走するというのも事実です。手探りの先が見えず、探究が学力を下げてしまうのではないか、やらせるだけではカオスになるのではないか、探究をして本当に何か得られるのか、時間の無駄ではないか、といった懐疑的な見方を持つ先生方がいるのも無理はありません。

探究型カリキュラムへのシフトが進む海外

日本以外の先進国を見ると、確実に探究型へシフトしています。代表的なのは、フィンランド、シンガポール、カナダ、オーストラリアなどです。さらに、世界5,000校以上で採用されている国際バカロレア(IB)でも、探究ベースのカリキュラムが実施されています。

探究と一口に言っても、実はいくつかのタイプがあります。たとえば、YesかNoかで答えられるようなConfirmation Inquiry、かなり構造化されたStructured Inquiry、方向性は示されるがある程度自由度のある Guided Inquiry、そして自由に進めるOpen Inquiryなどです。

こうした探究の効果については、海外で多数の研究が行われており、それらを統合したメタスタディも数多くあります。私も主要なメタスタディを読みましたが、結論としては、探究は批判的思考や創造的思考の育成に寄与するだけでなく、教科の学習にもポジティブな影響を与えるということが示されています。

文部科学省による「キャリア教育」の定義

ただし、ここで重要なのは、「どのような探究が効果を生むのか」という点です。研究が共通して示しているのは、ガイド付きの探究、すなわちGuided Inquiryが有効であるということです。

つまり、探究がうまくいくかどうかは、生徒の自律性と教師の足場かけのバランス、構造化と開放化のバランスにかかっている。探究をやるかやらないかではなく、やり方の問題なのです。

探究のカリキュラムには「Guiding Principle」が必要

そこで大切になるのが、新しいカリキュラムデザインの考え方です。
一般的に、カリキュラムというと、目的・目標があり、活動内容があり、学習方法、教材やリソース、評価方法、時間配分や順序がある、いわばシラバスのような活動表を思い浮かべると思います。これは英語でも数学でも物理でも、共通する基本形です。

ただ、探究のカリキュラムデザインで重要なのは、それだけでは足りないということです。探究はダイナミックで、何が起こるか分からず、なかなか完全に構造化できません。だからこそ、活動表に加えて、Guiding Principle(ガイドするための原理)が必要だと私は考えています。

このGuiding Principleは、大きく三つから成ります。

●探究活動の進め方
●それを支える思考力
●評価の仕方


この三つを軸に、探究のカリキュラムを設計していく必要があるのです。

探究を支える「プロジェクトメソッド」

探究活動の進め方として、私が提唱しているのがプロジェクトメソッドです。PBLと呼んでもよいのですが、PBLという言葉はProblem Based Learningなのか、Project Based Learningなのか、あるいはPhenomenon Based Learningなのか曖昧さがあるため、私はあえて「プロジェクトメソッド」あるいは「プロジェクトウェイ」と呼びたいと思っています。

このプロジェクトメソッドを一言で言えば、ディスカッション、リサーチ、プレゼンテーションの三つの活動が相互作用しながら展開していく、目的を持った活動です。
リサーチして、ディスカッションして、プレゼンテーションする。あるいは、ディスカッションしてからプレゼンテーションし、その後リサーチすることもある。順序は固定ではありません。重要なのは、この三つが循環しながら進むことです。

文部科学省による「キャリア教育」の定義

私はこれを、螺旋階段のようなイメージで捉えています。たとえば中学1年生から高校3年生まで、同じくディスカッション、リサーチ、プレゼンテーションを繰り返していく。その中で、ディスカッション力、リサーチ力、プレゼンテーション力が、螺旋的に少しずつ伸びていくという考え方です。
探究の進み方は、一直線ではありません。回り道もあるし、飛躍もあるし、時には同じところをぐるぐる回っているように見えることもあります。森の中の小道のように、時には戻り、枝分かれしながら進んでいく。私は、それが探究の自然な姿だと思っています。

このプログラムを通して学べるのは、まさにこの三つの力です。ディスカッション力、プレゼンテーション力、リサーチ力は、社会でどのような生き方をするとしても、本当に重要な生涯スキルだと思います。

探究に深みを与える「QDT」という思考モデル

ただし、ディスカッション、リサーチ、プレゼンテーションの循環だけでは、探究が深まるとは限りません。そこに必要なのが、思考力に支えられた探究活動です。私がここで紹介したいのが、QDT(Quatro Dynamic Thinking)と呼んでいる、多次元的思考モデルです。これは、探究の教え方や、生徒の思考を支える問いと方法を考える中で構想してきたものです。

QDTでは、考える力を次の四つの次元で捉えます。

●深く考える(Diving)
●広く考える(Expanding)
●つながりを考える(Networking)
●変化を考える(Flowing)


つまり、深さ、広がり、関係性、時間軸。この四つの次元を有機的に統合して、学習や探究を支えていくモデルです。

1.深く考える「ダイビング思考」

ダイビング思考は、垂直方向に深く考えていく思考です。
最初は「何が起きているのか」という観察から始まり、「どのように」という仕組みへ進み、「なぜ」という原因を問い、さらに前提そのものを問うところまで深めていきます。たとえば海のプラスチックごみを例にすると、最初は「海にはどんなプラスチックごみがあるのか」「どのくらいの量があるのか」といった観察の問いから始まります。そこから、「プラスチックごみはどのように海へ流れたのか」「海に入ったプラスチックはどう拡散するのか」「海洋生物にどのような影響を及ぼすのか」と仕組みの問いへ進みます。

さらに、「なぜプラスチックごみが海に流出するのか」「なぜリサイクルシステムは十分に機能していないのか」と原因を問い、最後には「なぜ私たちはこれほど大量のプラスチックを使っているのか」「便利さと環境保全をどう考えるのか」「持続可能な社会における経済成長とは何か」といった本質的な問いに至ります。

こうして問いを深めていくのが、ダイビング思考です。

2.広く考える「エキスパンディング思考」

エキスパンディング思考は、問題を中心に置き、そこから放射状に視点を広げていく思考です。たとえば「海のプラスチックごみ問題」を真ん中に置き、科学、経済、政治、文化、心理など、さまざまな視点からその問題を捉え直していきます。科学的には「プラスチックの性質は何か」「分解にはどれくらい時間がかかるのか」。経済的には「プラスチック産業の規模はどのくらいか」「代替品のコストはどうか」。文化的には「使い捨て文化はいつから始まったのか」「文化圏によって消費パターンはどう違うのか」といった問いが生まれます。つまり、一つの問題に対して視点を変えることで、新しい問いや洞察が生まれるわけです。

3.つながりを考える「ネットワーキング思考」

ネットワーキング思考は、要素同士の関係性に注目する思考です。
たとえば大きな模造紙を用意し、「プラスチック生産企業」「消費者」「政府」「海洋生態系」「廃棄物処理システム」「代替素材開発者」「環境NGO」「メディア」といった要素を付箋に書いて配置します。そして、その間を矢印で結び、因果関係、相互依存、対立、協力などの関係を可視化していきます。

たとえば、消費者の需要が高まれば企業の生産が増え、廃棄物が増え、海洋汚染が悪化する。これは因果関係です。しかし、そこに「海洋汚染が悪化するとメディア報道が増え、消費者の意識が高まり、企業に圧力がかかり、代替素材の開発が進む」といったフィードバックループが見えてくるかもしれません。あるいは、政府の規制と企業のロビー活動の対立関係、NGOの啓発活動と消費者教育、行動変容の協力関係なども見えてきます。

こうして問題を、要素の集まりではなく、関係性のネットワークとして捉えていくのがネットワーキング思考です。

4.変化を考える「フローイング思考」

フローイング思考は、時間の流れの中で問題を見る思考です。
横軸に時間、縦軸にシステムの状態や主要な要素の変化を置き、歴史的資料やデータ、未来予測を統合しながらタイムラインを構築していきます。
プラスチック問題であれば、1950年代に大量生産が始まり、1970年代に環境運動が台頭し、1990年代にリサイクルの取り組みが進み、2000年代以降に海洋汚染やマイクロプラスチック問題が顕在化し、現在は脱プラスチックの動きが広がっている、というように時系列で整理していきます。そうすると、生徒たちは「問題の認識と対応の間には大きなタイムラグがある」「技術的な解決策が新たな問題を生むこともある」といったことに気づけるようになります。

さらに、ここからシナリオプランニングにもつなげられます。今の傾向が続いた場合、積極的な介入が行われた場合、革新的な技術や制度変化が起きた場合など、複数の未来シナリオを描き、その実現に向けて何が必要かを逆算して考える。これはバックキャスティングの発想です。

ダイビング、エキスパンディング、ネットワーキング、フローイングは、別々に使うこともできますが、私はこれらを統合することによって、より深い探究が可能になると考えています。つまり、「考えることを考える」ためのモデルを可視化し、何をどのように考えればよいかを示してあげることで、ディスカッション、リサーチ、プレゼンテーションに深みが生まれるのです。

この四つの思考は、それぞれ21世紀型スキルともつながっています。ダイビングはクリティカル・シンキング、エキスパンディングはクリエイティブ・シンキング、ネットワーキングはシステム思考、フローイングは戦略的思考につながるでしょう。教師にとっても、こうしたモデルがあることで、「考える力」を漠然としたものではなく、ある程度操作可能で、見取りやすいものとして捉えられるようになります。生徒の思考の傾向も把握しやすくなり、評価基準にもつながっていきます。

私は、こうした思考法は中学校どころか、小学校から学ぶほうがよいと思っています。大人になってから身につけるより、自然なかたちで思考の習慣にできるからです。知識の半減期は短くなっていますが、思考の枠組みは簡単には陳腐化しません。複雑さに向き合う力を早い段階から育てることが、探究の大きな狙いだと思います。

文部科学省による「キャリア教育」の定義

探究における評価で重要な「形成的評価」と「フィードバック」

探究には、当然ながら評価が必要です。ただ、その評価は、生徒を序列化するためのものではありません。生徒自身が自らの学びを理解し、次の成長の方向性を見いだすために機能するものであるべきです。私は、特に形成的評価とフィードバックが重要だと考えています。探究は成果だけでなくプロセスの学びですから、その途中での支援が欠かせません。

たとえば、ダイビング思考についてなら、「何・誰・いつ」といった事実確認の問いから始めている段階なのか、それとも「なぜそうなのか」を掘り下げ、前提そのものを問う段階に至っているのか、といった行動指標を設定できます。ネットワーキング思考でも、一つの要素だけを調べている段階なのか、複数の要素の因果関係や間接的な影響まで見えている段階なのか、といった見方ができます。
さらに、QDT全体を用いているなら、一つの次元に偏っているのか、複数の次元を意識的に使っているのか、四つをバランスよく活用しているのか、といった観点からルーブリックを作ることも可能です。

また、全体的な評価としては、たとえば次のような観点が考えられます。

●問いの質
●探究プロセス
●情報活用
●思考の深さ
●思考の広さ
●関係性の理解
●時間軸の認識
●成果物
●メタ認知

こうした複数の指標を組み合わせ、総合的に評価していくことが一つの可能性だと思います。

ポートフォリオは「次の探究への入口」

探究が終わったら、生徒はポートフォリオを作成します。そこには、探究プロセス全体の成果物や変容の軌跡、リフレクションの文章、自己評価などが含まれます。

ポートフォリオの構成の仕方は、生徒に任せてよいと思います。時系列で並べる生徒もいれば、思考次元ごとに整理する生徒もいるでしょう。問いの深化を中心に構成する生徒がいてもよいと思います。

大切なのは、ポートフォリオが「終わったことの記録」ではなく、継続する学びの一部であることです。生徒が探究の中で獲得した問いを生み出す力、多次元的に考える力、省察する姿勢は、次の探究へと引き継がれていくものです。

ですから、ポートフォリオの最後には、常に「次の探究へ」というセクションがあり、今回の探究から新たに生まれた問いや関心を記録していく。そういう形が素敵だと思います。

探究をカリキュラムに組み込むために必要なこと

探究をベースにした活動には、やはりGuiding Principleが必要です。プロジェクトメソッドとQDTは互いに交差し合いながら、豊かな探究を可能にしていきます。

ディスカッションとダイビング、ディスカッションとエキスパンディング、ディスカッションとネットワーキング、そうした交差の中で探究は深まっていきます。そして評価もまた、ディスカッション、リサーチ、プレゼンテーションの力と、QDTの四つの思考次元の両方を考慮したものになっていく必要があります。
こうした評価基準は、生徒にとっては「何をすればよいか」の見取り図になり、教師にとっては、生徒が今どこにいて、どのように動いているかを可視化する手段になるはずです。

2022年から昨年あたりまで、探究は一つの模索期だったと私は思っています。いろいろ実践され、成果も現れてきた一方で、それをメソッドとして、教育課程の中にしっかり組み込むことはまだ十分ではなかった。そのため、探究への懐疑論も生まれてきたのでしょう。

しかし、今日は、探究にはエビデンスがあり、これからの時代に必要な「生きる力」、すなわち「たくましさ」と「しなやかさ」を育てる上で非常に重要なのだということをお伝えしたかったのです。学力差や性格の違いも、多様性として包み込み、その多様性が探究を豊かにしていく。私はそのように考えています。

文部科学省による「キャリア教育」の定義

Q&A:聴講者からの質問への回答

Q1.探究の初期段階で思考が止まってしまった生徒を、どう理解し、どう働きかけるべきか

探究の初期段階で思考が止まってしまう生徒は、よくあるケースだと思います。そもそも探究をどういう形で行うのか、クラス全体でやるのか、グループでやるのか、個人でやるのかによっても状況は変わります。探究には、個人探究と協働探究があると思います。主体的・対話的で深い学びという観点から言えば、グループによる協働探究はとても相性がよい。グループがうまく機能し始めれば、その流れの中で「自分もここに貢献できる」と感じやすくなります。
ただ、グループそのものが探究としてよいスタートを切れないことはあります。その原因を一言で言うのは難しいのですが、よくあるのは、自分たちで立てた問いに、次へ進む推進力がないというケースです。問いの立て方によって、探究が前へ進むかどうかはかなり左右されます。
私は、よい問いには三つの基準があると思っています。
一つ目は、やりたいかどうか。自分で調べてみたいと思えるかどうかです。
二つ目は、探究可能かどうか。つまり、実際に調べられる問いかどうかです。
三つ目は、やる価値があると感じられるかどうか。やっていくうちに「これは意味がある」「価値がある」と感じられる問いかどうかです。

グループで問いを考えるときには、「みんな、本当にこれをやりたい?」というところから出発して、それぞれの内側にある思いを出し合うことが大切です。その上で、「どうやって調べられるか」という見通しを立てる。そして、「これをやったらこういう意味があるよね」と価値づけができると、その探究はオーセンティックな、本物の探究になっていきます。やはり、スタートとして大切なのは、生徒自身が「やりたい」と思えるかどうかだと思います。

Q2.QDTの四つの思考は、探究の性質によって選ぶのか。それとも組み合わせるのか

そこは自由だと思います。深掘りを中心にして、ダイビングをもっぱら行う探究があってもよいし、ある程度まで深掘りしたところで、「これは他のところにも当てはまりそうだ」と広がっていって、エキスパンディングにつながることもあります。

また、一見すると無関係に見えるものが、深く考えていくことでつながりとして見えてきて、ネットワーキングに展開することもあります。ですから、基本は自由でよいと思います。

Q3.QDTの四つの思考は、最初にまとめて教えたほうがよいか

私は、最初に教えるのがよいと思います。
実際に、非常にうまくいっている探究の事例があります。そこでは、最初の1学期を使って、「探究とは何か」「どうやってやるのか」「どう考えるのか」「問題をどう発見するのか」といったことを、全11回にわたって学びました。たまたま私がその授業を担当したのですが、生徒たちはその時点で、ある種の羅針盤のようなものを手にしていたわけです。

その上で、2学期からはグループに分かれ、15のゼミに分かれて探究を進めました。創作、小説、科学実験、循環型農業、スポーツなど、多様なテーマがありましたが、うまくいった理由は、最初に「やり方」を学んでいたからです。

探究が始まると、生徒たちは「あの時の話と関係があるんじゃないか」と振り返れる。自信もあるし、やり方についての知識もある。そういうことが、探究を支えていたのだと思います。

Q4.生徒一人ひとりのペースや試行錯誤を大切にしながら、授業デザインをどうすればよいか

探究をデザインする時に、最も重要なのは、やはりテーマだと思います。自分の問いを見つけることです。
ただ、「何でもいいよ」と言うと、生徒はかえって何も思い浮かばないことが多い。探究は「難しそうなテーマ」や「社会的に立派なテーマ」や「先生に褒められそうなテーマ」でなければいけない、という思い込みがあるからです。でも、探究は本来、もっと身近なところから生まれるものです。そのことを、先生がまず事例で示すことが大切だと思います。
たとえば、最初のステップとして、「気になること」を集めてみる。「あれ?」「なんで?」と思ったことを意識的に集めるのです。
「スマホを長時間使うと、なぜ目が疲れるのだろう?」
「近所の川には昔魚がいたのに、今はいないのはなぜだろう?」
「コンビニのレジが自動化しているけれど、店員さんの仕事はどう変わるのだろう?」

そんな小さな疑問でよいのです。ふだんは流してしまうような疑問を、ノートやスマホ、iPadなどに書き留める。この習慣を1週間続けるだけでも、かなり「気になること」が集まってきます。

次に、自分の好きなこと、得意なこと、夢中になれることを挙げてみる。ゲーム、音楽、料理、漫画、ファッション、K-POP、何でもよいのです。勉強っぽくないものでも全く構いません。むしろ、本当に好きなことのほうがエネルギーが続きやすい。そこから、「なぜ好きなんだろう」「特に何が気になっているんだろう」と少し掘り下げていくわけです。

さらに、その「気になる」を探究の問いに変えていきます。はい・いいえで終わる問いではなく、調べたり考えたりしながら深めていける問いにすることが大事です。たとえば、「コンビニのレジは自動ですか?」ではすぐに終わってしまいます。でも、「なぜコンビニは自動レジを導入しているのか」「自動レジが増えると社会はどうなるのか」「自動レジにしてほしくない人はどんな人で、その人たちはどんな工夫ができるのか」となると、探究が始まります。

また、問いは大きすぎると前に進めません。
「地球温暖化について探究する」は重要なテーマですが、大きすぎます。そこで、「自分の地元の夏の平均気温はこの30年でどれだけ変わったのか」「学校の冷房使用時間と電気代はどう変化しているのか」「食事を変えることで、一人ひとりがどれだけ排出を減らせるのか」
というように、絞っていくのです。

探究の問いづくりには、「本当に調べられるか」「1〜2か月程度で何らかの結論に近づけるか」という見通しも大切です。
たとえば、「給食が好き」「料理が得意」「お菓子が大好き」という興味からも、十分に研究テーマは生まれます。
「なぜ学校給食では毎回牛乳が出るのだろう」という疑問から、日本の食文化の歴史、学校給食制度、牛乳アレルギーの子どもにとっての給食体験、といった社会的な問いに広がっていきます。さらに、「給食で牛乳を出していない国や地域はあるのか」「そこでは何を飲んでいるのか」と、比較の視点も生まれます。
あるいは、「チョコレートはなぜあんなにおいしいのか」
という素朴な疑問から、成分が脳にどう作用するかという科学的な問いにもつながりますし、カカオの生産現場をたどれば、児童労働やフェアトレードの問題にもつながっていきます。

こうした例を先生が少し示してあげることで、生徒は「そうやって思考を深めていけばいいのか」と分かる。その後は、かなり自走できるのではないかと思います。

Q5.教員はどの程度フォローすべきか。議論や思考が止まった時の支援とは

授業には時間がありますから、どうしても「そろそろまとめましょう」と収束させたくなります。けれども、議論や思考が止まっているように見える時というのは、実はその内側で思考している可能性があります。探究を心の中で進めているのかもしれません。

そこを急いでまとめてしまうと、せっかく芽生えかけていたものを摘んでしまうことがある。だから私は、探究をスパイラルだと言っているのです。一直線に、一つずつ消費型に進めていくものではなく、時にはものすごく時間がかかったり、発言のない時間があったりしても、それを待つことが大事なのです。

私はモンテッソーリの幼稚園で名誉園長も務めており、その教育哲学を学んできましたが、やはり子どもが何かに向き合っている時、教師がいかに干渉しすぎないかがとても重要です。答えを出してしまうのは、一番避けたいことです。

もちろん、私自身も英語を教えている時、すぐに答えを言いたくなることがあります。しかし、そこで少し踏みとどまる。そのこと自体が生徒へのメッセージになると思うのです。 「先生は、自分の考えているこのプロセスを尊重してくれている」 そう感じられることが大切です。

毎回決められた通りに授業を進めなければならないという発想をいったん手放し、時には飛躍があり、時には立ち止まりがあり、時には脇道にそれてもよい。そういうことが、探究には絶対に必要だと思っています。

おわりに

私がいろいろな場でお話ししていることですが、長く教育に携わる中で、一つはっきり学んだことがあります。
それは、生徒にとって最も大切なのは、Meaningful・Authentic・Personal、この三つを満たす活動や教材を提供することだ、ということです。私はこれをMAPと呼んでいます。

Meaningfulは、生徒にとって意味があり、価値があること。
Authenticは、嘘っぽくない、本物であること。
Personalは、自分ごととして引き寄せられることです。

探究というのは、まさにこの三つの条件を満たしやすい学びだと思います。そして、その中でも特に大切なのは、やはりPersonal、つまり自分に引き寄せられることです。人は、パーソナルなことに対して強く反応し、関心を持つものです。

だからこそ、パーソナルなことに重点を置きながら、オーセンティックな活動を行い、それがミーニングフルなものになっていく。そういう探究ができたらよいのではないかと思っています。このMAPの原理は、考えれば考えるほど応用力があり、教育に与えるインパクトも大きいものだと感じています。

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