アクティブラーニングから探究学習まで、
今さら聞けない教育トレンドワードを全解説
学びのあり方が見直されつつある昨今、文部科学省が推進するアクティブラーニングや主体的・対話的で深い学び、探究学習など、教育領域では様々なトレンドワードが存在していますが、教育の現場で日々奮闘する先生の中には「様々な言葉が飛び交っているものの実はよくわかっていない」という方もいらっしゃるかもしれません。そこで本コラムでは現代教育のトレンドワードを紐解き、解説します。
※この記事では、文部科学省の掲げる「アクティブ・ラーニング」も含意しつつ「アクティブラーニング」と表記を統一しています。
アクティブラーニング
アクティブラーニングは、生徒が能動的に学習プロセスに参加する教育法・学習法のことで、伝統的な一方向的講義からの脱却を目指し、認知的、倫理的、社会的能力や汎用的能力を育むためのものです。この手法は1980年代に米国の高等教育で生まれ、日本でも高等教育改革の一環として導入されました。学修者の主体的な参加を促し、発見学習、問題解決学習、体験学習など様々な形式を含みます。
アクティブラーニングはVUCA時代における予測不可能な状況に対応するための創造的思考を育み、柔軟性、情報収集・分析・活用の力、他者理解や人間関係の質を向上させることを目的としています。教育現場での採用は、生徒たちにより実践的で深い学びを提供することを意図しています。
主体的・対話的で深い学び
「主体的・対話的で深い学び」とは、生徒が自ら学びの意義を見出し、積極的に学習に取り組むことを目指す教育のアプローチです。このアプローチは、生徒自身が自己実現を図りながら、他者との対話を通じて協働で問題解決に取り組むことを重視しています。深い学びでは、知識の単なる記憶や再現にとどまらず、事象の本質を理解し、高次の思考力を養うことを目指します。
講義中心の授業と異なり、生徒の主体性を引き出して協働を促進することで、より深い理解と学びの質の向上を図ります。教育の理念や理論、方法論として、自己調整学習、協働学習、探究などを取り入れ、生徒が自ら学び他者と協力しながら深い理解を追求することが求められています。
探究学習
探究学習という言葉自体はいつからか生まれた造語ですが、いわゆる「探究」を実施する活動のことを指していると捉えてよいでしょう。では探究とはなにか。2024年現在、中央教育審議会の会長である荒瀬克己氏が校長を務めた京都市立堀川高等学校では、「“正解の用意されていない問い”に対して“より良い答”を導き出そうとする営み」と定義されています。
学習指導要領でも探究というキーワードが出始めましたが、その本質は生徒が自分のあり方や自ら抱いた様々な問いと向き合い、そして情報を集めたり分析したりしながら、解を導き出す過程における学びの姿にあります。
この学びの中で生徒は、自らの主体性、批判的思考、創造的思考、問題発見の力を育みます。本当の意味での「探究」を実現できる探究学習は、生徒が自己を受容し現実世界の問題に対して積極的に関与し課題を解決するだけではなく、次世代のための新たな価値を創造する自律・自立・共生的な生きる力を育むための種を蒔くことと言えるでしょう。
探究/探求/研究の違い
「探究」「探求」、そして「研究」は、学びや発見のプロセスにおける重要な概念ですが、それぞれが指し示す意味や焦点に違いがあります。ここでは、それぞれの言葉の特徴を捉えながら相違点を考えます。
探究:
探究は上述したように主に教育分野で用いられ、生徒が自らの問いに基づいて情報を収集し分析することで、新たな知識や理解を構築するプロセスを指しています。堀川高等学校が示すように、「正解の用意されていない問い」に対して「より良い答」を導き出すプロセスそのものであり、その中で生徒の主体性、批判的思考、創造的思考を育んでいきます。ゆえに理想的な探究学習では、生徒が自身の学びの主体となり、現実世界の問題に積極的に関与し課題を設定、そして解決への見通しを立て行動するプロセスを通じて、自立・自律・共生的な生きる力を育むことを目指しています。
探求:
そもそも教育分野における「探求」の使用場面は、探究の誤用が多い印象を受けます。一方で、あえて「探求」が使われる場合もあります。その場合は、より広範囲にわたる探索や冒険を意味し、新しい領域や未知の問題への好奇心を満たすための活動を指していると考えられます。英語ではexplorationやquestが適切ではないでしょうか。ここでは、特定の問題の解消を目指すよりも、未踏の分野を発見したり新たな可能性を探ったりすることに重点が置かれます。探求は既存の枠組みや知識の範囲を超えて、新しいアイデアや視点を求める探索的な姿勢を促します。
研究:
研究は、特定の分野における知識や理論の発展を目指す体系的な活動を指します。科学的方法に基づいて仮説を立て、実験やデータ分析を通じて検証し、客観的な結論を導き出すプロセスが特徴です。研究は新たな知識を創出し理論を構築することを目的としており、学問的な厳密さと根拠に基づいたアプローチが求められます。研究は高等教育や専門的な研究機関において、特定の専門分野の深い理解と発展に貢献しています。
探究学習において課題研究を実施する場合が多いのは、そもそも課題研究的な活動を「探究」という言葉でリブランディングしていったという経緯があります。必ずしも研究的な手法が探究的な学びではないことを理解することは非常に重要でしょう。
これら三つの概念は、学びや探索の目的やアプローチにおいて異なります。「探究」は教育的な文脈で生徒の能動的な学びを促し、「探求」は新たな領域への好奇心を刺激し、「研究」は知識の体系的な発展と検証を追求します。また、これらの共通点として人間のもつ本質的な「?」や「!」が根底にあるのは間違いありません。古くは、ジョン・デューイやその弟子のキルパトリックが理論化したり、日本では大正自由教育運動によって推進されたり、といった子ども中心の学びのあり方にも共通する部分が多いでしょう。
それぞれが学びや発見における異なる側面を持ちながら、知識の「たんきゅう」や創造に対する豊かな経験を提供するはずです。
観点別評価
観点別評価は現在、生徒の学習成果を「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という三つの主要な観点から総合的に評価する方法として整理されています。このアプローチは教科知識の理解度だけでなく、生徒が情報をどのように分析・処理し自分の考えをどれだけ効果的に表現できるか、そして学習にどれだけ積極的に取り組んでいるかを包括的に判断します。学校現場では観点別評価を通して生徒の批判的思考、問題解消のための力、そして自律的な側面を強調した21世紀に必要なスキルの獲得を目指しています。
観点別評価は形成的評価(学習過程の評価)の一環として、生徒の継続的な学習プロセスを支援し学習意欲の向上を促しますが、決して数値化が目的ではないことを強調することは重要です。教師はこの評価を通じて、生徒一人一人の得意分野や改善点を把握し、個別の指導や適切なフィードバックを提供します。また、生徒自身が自己の学びを振り返り自己評価する機会も得られ、学習者として自律していくことにも貢献します。
定期考査
中学校では中間考査で国語、社会、数学、理科、英語の5教科を行い、期末考査では実技4教科を加えた9教科の試験を実施することが一般的です。高等学校では教科が細分化され、科目別に試験が行われます。試験は学期ごとに配置され、学年末試験を含め年間数回実施されるのが通例です。
しかし、少しずつこういった定期考査を廃止する動きも広まっています。例えば福井県立敦賀高校では2023年より、全学科で定期考査を廃止し普段の学習への取り組みを支援する方針を取っています。生徒の到達度の確認は単元テストやパフォーマンス課題、授業での取り組みで行い、年2回の総合テストを実施しています。
この学校では、教員間の情報共有の効率化や生徒との対話時間の増加を図り、生徒が自律的に学ぶ環境を整備しています。また、生徒の自己調整力や自律性を育成するために、再テストの機会を提供し、肯定的なフィードバックによる学習支援を行っています。定期考査の廃止やこれらの取り組みは、生徒が自発的に学び続ける力を身につけることを目指しており、学習の質の向上と生徒の自立を促進する新たな評価と学習支援のモデルを提案しています。
ルーブリック
ルーブリックとは、教師が生徒の作品や活動を公平に評価するための基準の表のことをさします。ここには、生徒がどんな能力をどの程度持っているかを示す具体的な目標が書かれています。「規準(のりじゅん):何ができているか」と「基準(もとじゅん):どれくらいできているか」が、観点ごとに明記されている表です。例えば、「プレゼンテーションのスキル」であれば以下のようになります。あくまでも生徒の実態に応じたルーブリックであることが重要です。
ルーブリックを使うと、教師は生徒一人一人の学びの進捗を具体的に把握しやすくなります。また、生徒自身も自分がどこにいて、どうすればもっと上手くなれるのかを知ることができます。このツールは、学習の目標をはっきりさせ、学習過程を振り返り、次にどう改善すればいいかを考えるのに役立ちます。
指導と評価の一体化
「指導と評価の一体化」では、教師が生徒の学習成果を的確に捉え、生徒の主体的な学びや対話を通じた深い理解を促進するための授業改善に役立つことを目的としています。学習指導要領の改訂により、教育内容が「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「主体的に学びに向かう力」の三つの柱に沿って再整理されたことで、各教科において資質・能力を育むための目標を明確化し、指導と評価の一体化を実現しやすくする期待を持たせています。
しかし、そもそも日本の学校教育システムの多くは、主に生徒の学習結果を成績として表すことに重点が置かれがちです。これが目的化することで、生徒が自分自身の学習過程を振り返り、成長を自覚する機会を提供するという評価の本質的な役割から離れることになります。その結果、学習の目的が単に良い成績を取ることに限定され、学びの本来の楽しさや意義が見失われてしまう恐れがあります。
この問題に対処するためには、評価の見方を新たにする必要があります。評価は、成績をつけること(数値化)を目的としたものではなく、生徒が自分の学びを振り返り、次のステップにどう進むかを考える手段(アセスメント)であり、他者(教師やクラスメート)が客観的にフィードバックをしやすくするための一つの手段であると解釈したいところです。
教育活動では、生徒一人一人が自分の価値を理解し、自己の変容につなげることができるようなサポートを教師が担っているはずです。「指導と評価の一体化」に過度に固執することなく、その背景にある理論を考えることで、生徒の学びがより深く意味あるものになるよう共に探究することが重要です。
ティーチングとコーチング
ティーチングとコーチングは、学習や成長を促進する二つの異なるアプローチです。ティーチングは、知識や技能を伝え理解を深めることを目的とした教師が主導する学習プロセスです。教師が情報を提供・説明し、指示を出す役割を果たします。
一方、コーチングは個人の内面的な可能性を引き出し、自己発見と自己成長を促すプロセスです。コーチングでは、コーチは質問を通じて個人の考えを促し、目標達成に向けて自らの答えや解決策を見つけるよう支援します。ティーチングは「教える」ことに焦点を当て、コーチングは「導く」ことに焦点を当てています。両者はそれぞれ異なる状況や目的に応じて有効であり、学習者のニーズに合わせて適切に選択・組み合わせることが重要です。
個別最適な学び
「個別最適な学び」とは、生徒たち一人一人が自分に合った方法で学び、自分で学習を進めることができるようにする教育のアプローチです。これは、「指導の個別化」と「学習の個性化」の二つの部分から成り立っています。「指導の個別化」では、生徒自身が自らの特徴やどのように学習を進めることが効果的であるかを学んでいくことなども含まれ、基本的な知識や技能を身につけると同時に、自分で学習を調整しながら取り組む力も育みます。
一方、「学習の個性化」では、生徒たちの興味や関心に基づいて探究活動や学習課題に取り組む機会を提供します。これにより、生徒たちは自分のキャリアや将来に向けて、自ら学びの方向性を考え取り組むことができます。ICTを活用することで、学習状況をより細かく把握し個別に合わせた学習方法を提案するなど、新しい教育手法も取り入れられています。このように個別最適な学びは、生徒たちが自分自身をよく理解し、自律・自立・共生的に学習を進める力を育んでいくことを目指しています。
双方向型授業
「双方向型授業」とは、教師と生徒が双方向にコミュニケーションを取りながら進める授業のスタイルを指す場合と、オンライン授業において教師と生徒が同時にオンライン空間に存在し、授業を実施する場合の二つを指していると考えられます。いずれにしても、従来の一方向的な授業のように、教師が情報を伝え生徒がそれを受け取る形の授業スタイルではなく、双方向型授業では生徒の意見や質問も大切にされています。
生徒が授業に積極的に参加し、自分の考えを表現することを奨励している双方向型授業は、生徒が自ら学びを深める機会を提供し、教師も生徒の反応や理解度をリアルタイムで把握できるため、より効果的な指導が可能になると考えられています。この授業スタイルは、主体的で対話的な学びを促進し、21世紀のスキルを育むために重要とされています。
協働的な学び
令和3年の答申では、「協働的な学び」が強調されており、生徒たちが他者と共に学び、社会的な変化に対応し、持続可能な社会の創り手になるための資質や能力を育成することの重要性を指摘しています。学校は未来への準備だけでなく現実社会との関わりを通じて日々を生きる場でもあり、生徒たちは様々な人と関わりながら学び、自分の行動が社会に影響を与えることを実感します。
ICTの活用によって協働的な学びは拡張される一方で、人と人とのリアルな関わり合いの重要性も再確認されています。対面での交流や地域社会での体験活動は生徒たちの全人的な成長に不可欠であり、学習指導要領ではこれらの体験活動を重視し主体的で対話的な学びの実現を目指しています。
まとめ
本コラムでは、現代教育の様々なトレンドワードを紐解き、アクティブラーニングから探究学習まで、学びの新しい形を全面的に掘り下げました。これらをさらに深め考えることで生徒が主体的に学び、社会とつながり、今をより充実しながら楽しく生きられるために必要な教育のあり方を探究することができるはずです。思考と対話を楽しみながら、日々の教育活動と向き合っていきましょう。
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■著者・監修者
芹澤 和彦
高校英語教員/教育クリエイター
講演、企業研修、教員研修、イベント運営を多数実施。英語教育ではEF Excellent Award in Language Teaching 2019 Japan Finalist 第2位の表彰、アントレプレナーシップ教育ではNPO法人BizWorld Japan アドバイザー、ICT教育では2019~2022 Microsoft Innovative Educator Expertの認定を受けるなど、ジャンルを越えて教育実践を展開している。探究やクリエイティブ・ラーニング型授業の実践家である一方で、教員をしながら個人事業として起業。学校と社会の繋がりをつくる多様な活動をしている。
著書『中学校・高等学校 4技能5領域の英語言語活動アイデア』(明治図書)。
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