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  ICT教育・GIGAスクール構想関連コラム

主体的・対話的で深い学びと英語教育【後編】
高校英語教師が抱える現実的な悩みを解消するヒントとは

『英語教育』を語る特別対談 後編

芹澤 和彦
高校英語教員/教育クリエイター

今井 裕之
関西大学外国語学部 大学院外国語教育学研究科 教授

芹澤 和彦先生

「探究」授業の創設や「主体的・対話的で深い学び」の重要性が叫ばれる今日ですが、多くの先生方がその実践に苦慮しているのではないでしょうか。
本対談では、英語教育学を専門とされる、関西大学大学院 外国語教育学研究科の今井裕之先生をお迎えし「主体的・対話的で深い学びと英語教育」について【前編】では、「英語教育の転換に教師はどのように対応したらよいのか」について語っていただきました。【後編】では、現場の先生方が抱える「主体的・対話的で深い学び」への疑問やお悩みを基に、より本質に迫っていくようなお話を伺っていきたいと思います。

今井 裕之先生

今井 裕之
関西大学外国語学部 大学院外国語教育学研究科 教授

小中高の英語授業研究を継続して行なっている。特に、社会文化理論の観点から授業のコミュニケーションを分析し、対話による相互行為を通した言語学習を研究している。また、中高生のための英語スピーキングテスト開発、中学校英語教科書編集に携わるほか、小中高の英語授業研究会、研修会に参加し実践研究、授業開発を行なっている。
全国英語教育学会理事、関西英語教育学会副会長、小学校英語教育学会理事

悩み①:
「主体的・対話的で深い学び」における英語の評価とは?

今井 裕之さん

多くの先生の悩みの種は「評価」についてではないでしょうか。英語教育における学習評価の在り方について、「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」の3観点が設定されています。
この3観点の中で、先生方が最も苦労されているのは「主体的に学習に取り組む態度」に対する評価ではないでしょうか。以前は、いわゆる「関心・意欲・態度」という評価が重視されており、これは京都大学教育学研究科の石井英真准教授が「入口の情意」と表現されています。つまり、生徒が学習に対して関心や意欲を持ち、「やる気」をもって取り組んでいるかどうかを評価するものでした。例えば、手を挙げる、提出物を出すといった行動が評価の対象となっていました。

一方、現行の学習指導要領では、これとは異なる評価を求めています。具体的には、生徒が学習活動に目標を持ち、見通しを立てて取り組み、必要に応じて方法を調整し、最後に振り返るという「学習を自力で進める力」を育むことを目指しています。ここでの主体性の評価とは、「学びそのものに取り組んでいるかどうか」を測ることに重点が置かれています。

ただし、この評価方法に関して先生方が抱える課題の一つに、振り返りの評価の捉え方の混乱が挙げられます。国立教育政策研究所が出している参考資料には、「思考・判断・表現、言語活動が最後までしっかり取り組めたら、主体性があるとみなして一体で評価して良い」とされています。同時に、「振り返り活動を評価しましょう」とも記されており、二つのアプローチが示されています。その結果、多くの先生方が後者を取り入れ、生徒の振り返りをいかにABCなどの評価に結びつけるかで悩んでいるのではないでしょうか。

例えば、「自己肯定感が高い生徒は、どんな状況でもAと書くだろう」という見方になり、評価が当てにならなくなるジレンマを抱えることがあります。さらに、「指導と評価の一体化」という方針が、評価方法の混乱を一層深めているように思います。目標を設定し、それに基づいて指導を逆算して行い、その目標に沿った評価を最初に決めておく。この方法は、評価があらかじめ決められている状態とも言えます。

今井 裕之さん

こうした状況では、授業中に生徒のパフォーマンスを見取りながら評価を行うのが非常に難しく、指導と評価を別々に行わざるを得ないことが多いようです。その結果、「評定に落とし込みにくい」という悩みが生じているのだと思います。

主体性の評価には、曖昧さと適切なツールの不足が課題として残っています。また、「指導と評価の一体化」という理念のもとで、むしろ指導と評価を独立して両方をしっかり行わなければならない状況が生まれています。これが先生方にとって、自らにプレッシャーをかけてしまう原因となっているのかもしれません。

芹澤 和彦先生

「指導と評価の一体化」という言葉が、「指導した内容をすべて数値化しなければならない」と誤解されている可能性があります。現在、多くの先生方が「いかに生徒の活動を数値化するか」に悩まれていると思いますが、私は評価観をアップデートし、数値化から脱却しても良いのではないかと考えています。

数値化とは、結局のところ「メジャーメント(測定)」の考え方です。これに代わり、「フォーマティブアセスメント(形成的評価)」へのシフトが必要だと思います。評価はもっと広い視点で捉えるべきで、生徒の振り返りにABC評価を付けることはあまり適切ではないと感じます。例えば、うまく書けていない生徒でも、頭の中ではしっかり考えている場合があります。その場合、「C評価」として終わらせるのではなく、「書いていないけれど、どんなことを考えていたの?」と生徒に直接尋ねる時間を設けるべきです。数値化することが目的になってはいけないと思います。

ただし、3観点評価の中で、最終的に数値で評価することが求められるのは事実です。この「最終的な数値化」が納得のいく形であり、妥当性のある評価となるためには、教師と生徒の対話を通じて合意形成を行うことが不可欠です。これを怠ると、「テストで90点取っているのに、なぜ評定が3なの?」といった不満が生じる可能性があります。

芹澤 和彦先生

しかし、お互いが納得し、合意を得られれば、評価観はもっと自由に捉えてよいと思います。実際、私が担当しているクラスでは、教師と生徒の対話を重視することで、特に評価に関する大きな問題は起きていません。評価は生徒の学びを支えるための手段であり、その目的を見失わないことが重要だと感じています。

悩み②:
「主体的・対話的で深い学び」でインプット量が減るのでは?

今井 裕之さん

旧来のレクチャー型授業からの脱却を進める際、「インプットが減るのではないか」という懸念は常に付きまといます。ただし、インプットとは単に「たくさん英語を聞かせればよい、読ませればよい」というものではありません。インプットが自分にとって意味のあるもの、関連性のあるものとして提供されなければ、ただ右から左に流れていくだけになってしまいます。

重要なのは、インプットの量をむやみに増やすのではなく、その「必然性」を高めることです。例えば、生徒が友達同士で「こんな情報ないかな」と探し合うような探究型の授業では、得られるインプットの質は高まり、もはやそれは「インプット(入力)」ではなく「レセプション(受容)」と呼ぶべきものになります。

授業において「英語の量が多い」「少ない」といった単純な見方は本質を捉えていません。適切な英語の提供量を考えた上で、インプットの「量」ではなくレセプションの「質」を重視すべきだと思います。それこそ、生徒の学びを深める鍵になるはずです。

今井 裕之さん

悩み③:
文法や語彙をインプットする活動と「主体的・対話的で深い学び」は両立しないのでは?

芹澤 和彦先生

高校の英語教育では、文法や語彙のインプット活動と「主体的・対話的で深い学び」の実践のバランスに悩む先生方が多いようです。「クリエイティブな学びを重視することで、文法や語彙が疎かになってしまうのではないか」という懸念や、「文法や語彙を高いレベルで習得した生徒でないと、クリエイティブな学びには進めないのではないか」という観点がその背景にあります。

これらは確かに悩ましい問いです。文法や語彙は英語の基盤として不可欠である一方、学びを深めるにはクリエイティブな活動が必要です。両者をどう調和させるかが、英語教育における大きな課題です。

今井 裕之さん

確かに、「ゼロスタートの言語学習者が、語彙や文法を知らずしてどうして話せるのか」という問いは、多くの教育者が抱く疑問だと思います。しかし、小学校英語に目を向けると、語彙や文法を知らなくても、言語活動ができるという事実があります。この点を改めて認識する必要があると思います。

ルールとして文法や語彙を知らなくても、模倣を含めて実践できることは多くあります。そして、活動を通じて少しずつ文法の正確さを向上させたり、「どの文法や単語がわからないか」という気づきが学習動機となり、学びが進むという学習サイクルを回すことが可能です。

今井 裕之さん

このような考え方を受け入れるためには、先生方が指導法をアップデートする必要があると感じます。先ほど評価観についてアップデートが必要だという話がありましたが、指導法においても、「活動してから学び、再び活動する」という Do-Learn-Do-Again のプロセスを開いていくことが重要です。

今の学習指導要領では、「英語を使って何ができるか」を目標としています。つまり、活動が目標であり、知識そのものを目標としているわけではありません。このような方向性を踏まえた指導が、これからの英語教育に求められるのではないでしょうか。

悩み④:
英語教育における「深い学び」を教師はどのように捉えたら良い?

芹澤 和彦先生

英語教育における「主体性」については、今井先生とのお話を通じて多くの視点が見えてきたと思います。また、「対話性」に関しては、授業内での対話を重視するという姿勢は比較的イメージしやすい部分があります。
最後に、英語教育における「深い学び」とは何かについて考えてみましょう。これは非常に難しい問いであると思いますが、深さという漠然とした価値観を今井先生はどのように捉えていらっしゃいますか?

今井 裕之さん

高校教育の3年間だけで「深い学び」を考えるのは、確かに非常に難しいかもしれません。ただ、視座を少し高めてみると、その先には大学の英語教育があり、より高度で深い英語の学びが展開されています。

文法や語彙を学んだ後に続くものとは何なのか、高度な外国語話者とはどのような存在なのか。その問いの先にあるもののひとつが「ランゲージ・アーツ(言語技術)」※という考え方です。これは、英語で自分の考えを伝えたり、議論を深めたりするスキルや方法を指します。高校英語の次のステップとして、こうしたスキルが必要とされる場面が増えていくでしょう。

現在、高校では英検2級程度のライティングの形式がある程度定められていますが、それだけでは十分ではありません。「議論を深めるために、どのように情報を提供し、相手の質問に対応するのか」という技術についても、英語の枠を超えて対応していく必要があります。しかし、このような内容は、現時点では高校の教科書や学習指導要領に明確に示されていないのが実情です。

次のステップとして考えられるのは、英語でのネゴシエーションの仕方やクリティカルシンキングのスキルを学ぶことです。これらは、高校英語教育のさらなる発展にとって重要な要素になるでしょう。

ただし、これは非常に言語教師的な視点です。言語がツールとして機能するようになれば、それを活用して、例えば国際的な場面で他者とうまく協力するための異文化コミュニケーションスキルを学ぶことも重要です。「英語の見方や考え方」を広げ、異文化に適応できる生徒を育てることが、次の目標となるかもしれません。

関西大学外国語学部のカリキュラムでは、こうした要素を組み込んでいます。ランゲージ・アーツと異文化適応力を1年次にしっかり身に付けさせ、2年次には全員が1年間の留学を経験します。このようなプログラムは、高校英語教育のその先を見据えた一つのモデルと言えるでしょう。

※欧米諸国で実践されている世界標準の母語教育。日本語における「読む」「書く」「聞く」「話す」という4技能に加えて、「思考を論理的に組み立て、相手が理解できるようにわかりやすく表現する」「相手の言いたいことを的確につかみとる」スキル

芹澤 和彦先生

言語を問わず共通する「人間性」や「世の中の理」といった哲学的なテーマについて、コミュニケーションを取ったり、それらを扱った本を原著で読んだりしながら学ぶことが、まさに「深い学び」なのではないかと感じています。このような学びを実現するためには、ランゲージ・アーツ(言語技術)や異文化コミュニケーションを学ぶことが欠かせないと思います。

今井 裕之さん

OECD(経済協力開発機構)では、教育の三つの価値についてピラミッド型で示されています。一番下に位置するのが プラクティカルバリューです。これは「実際に使えること」、実用性を指します。
その上にコグニティブバリューがあり、認知的な価値を意味します。これは、先ほど触れたランゲージ・アーツのような、高度な言語使用能力を指します。そして最上部には イモーショナルバリュー、つまり情動性が位置づけられています。これは、学習を通じて得られる美的価値や情動的価値を指し、例えば、社会科を通じて世の中の見方が変わったり、平和を探求するにはどうすればよいかを感じ取るといったものです。

「深い学び」とは、このイモーショナルバリューに到達することなのかもしれません。実用性や認知的能力を基盤とし、その上で「心を揺さぶる」ような学びを目指すことです。例えば、「イクオリティ(平等性)」と「エクイティ(公平性)」の違いを考えさせる問いを通じて、言語を学ぶだけでなく、その先の価値観や考え方を探究するような教育です。

「それは英語科の役割なのか?」という疑問を持つ人もいるかもしれません。しかし、こうした問いを通じた学びを否定すべきではないと考えます。英語教育は実用力の不足を指摘されることが多く、基礎をしっかり固めることは当然の課題ですが、それを単に高度化するだけではなく、もう一段上の価値を見据えることが、「深い学び」なのではないでしょうか。

CASIOでは、ICTを活用したスムーズな授業や「主体的・対話的で深い学びと英語教育」の実践を支援するため、デジタルノート機能や課題共有に活用できる授業支援機能が入った『オールインワンのICT学習アプリClassPad.net』のトライアル版をご用意しております。ぜひご活用ください。

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※トライアル版お申し込みは教師、学校・自治体関係者に限らせていただきます

著者・監修者 芹澤 和彦

■著者・監修者
芹澤 和彦
高校英語教員/教育クリエイター

講演、企業研修、教員研修、イベント運営を多数実施。英語教育ではEF Excellent Award in Language Teaching 2019 Japan Finalist 第2位の表彰、アントレプレナーシップ教育ではNPO法人BizWorld Japan アドバイザー、ICT教育では2019~2022 Microsoft Innovative Educator Expertの認定を受けるなど、ジャンルを越えて教育実践を展開している。探究やクリエイティブ・ラーニング型授業の実践家である一方で、教員をしながら個人事業として起業。学校と社会の繋がりをつくる多様な活動をしている。
著書『中学校・高等学校 4技能5領域の英語言語活動アイデア』(明治図書)。

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