Personal Menu
Personal Menu
お気に入りに商品が追加されました。
【主催】未来の先生フォーラム
京都大学大学院 教育学研究科教授 西岡加名恵 氏 によるオンラインセミナー
自らの人生を舵取りする力を育てる探究学習の評価
〜ポートフォリオとルーブリックの活用〜
本記事では、パフォーマンス評価・ポートフォリオ評価法の研究の第一人者として、全国の学校現場への普及・研究に長年取り組んでいらっしゃる、京都大学大学院教育学研究科教授・西岡加名恵氏によるオンラインセミナー「自らの人生を舵取りする力を育てる探究学習の評価~ポートフォリオとルーブリックの活用~」の内容をご紹介します。
VUCAの時代に子どもたちが「自分軸」を持って生きていくために探究学習は何をもたらしうるのか。そしてそれをどう評価し、子どもの成長につなげるのか。現場の先生方にとって実践的な知見が詰まった内容をお届けします。
【登壇者】
西岡加名恵さん(にしおか・かなえ) 京都大学大学院教育学研究科教授
京都大学大学院教育学研究科教授。専門は教育方法学(カリキュラム論、教育評価論)。文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会臨時委員などを務める。主な著書に『教科と総合に活かすポートフォリオ評価法』『教科と総合学習のカリキュラム設計』など。
なぜ今、探究学習なのか――VUCA の時代を生き抜く力
今日は「自らの人生を舵取りする力を育てる探究学習の評価」という演題を掲げておりますが、まずそもそも、なぜ今探究学習が大事なのかというところから確認していきたいと思います。
よく最近「VUCAの時代」ということが言われています。変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高まったこの時代の中で、どう生きていくか、どんな社会をつくっていくかが問われています。地球温暖化、グローバル化に伴う文化摩擦、急速に進む人口減少社会、移民の増加と多様性・包摂性をどう尊重するか―これらは、私たち大人でさえ立ち向かい方がわからない問題ばかりです。
このような複雑な課題に対応するためにどんな力が必要かを、試しにAIと「壁打ち」しながら整理してみました。まず浮かび上がるのが「エージェンシー」―― 一人ひとりが価値や方向性を軸に、主体的に行動していく力です。そのためには、認知の枠組みやマインドセット、そして効果的に動くための方法論が必要です。たとえば「アジャイル」という言葉があるように、ちょっとやってみてうまくいかなかったら軌道修正する、そういう臨機応変な対応力も求められます。また、物事を断片的に捉えるのではなく、全体像の中で今どの部分が動いているかを把握する「システム思考」も重要になってきます。
さらに複雑な課題に対しては、一人の力では対応しきれないことも多く、いろんな個性を持った主体が連携・協働しながら力を発揮する「コ・エージェンシー」が求められています。共感性や協同性をどう培うかということも、ますます重要になってくるでしょう。
こういったあたりを、生成AIは整理してくれました。
生成AIの「根本的な弱点」と人間の力
チャットGPT は共通テストの9 科目で満点を取ったとも報道されています(「共同通信」2026年1月20日)。生成AIは、確かに穴埋め問題には非常に有能に見えます。しかし、穴が埋められるからといって、意味を理解しているかというとそうではないということが指摘されています。
今井むつみ先生が「記号設置問題」と呼んでいる話がまさにそれです。AIは「お腹が痛いから病院に行った」という文章を確率論的に推測して生成することはできますが、AI自身は身体を持っていませんから「お腹が痛い」という意味を実感として理解しているわけではないのです。
もう一つ、今井先生が指摘しているのが、AI は「アブダクション」をしないということです。アブダクションとは、結果から遡って原因を推理し、論理や仮説を創出する力のことです。人間はアブダクションをするがゆえに間違いも起こしますが、だからこそ新しい知識を創造する力を持っていると今井先生は述べます。しかしAIにはそれができません
(今井むつみ『学力喪失――認知科学による回復への道筋』岩波書店、2024年)。
そして何より、「何をもって良しとするか」という価値判断は、AI には全くできないものです。どう生きていくべきか、どのような社会を作っていくべきかという問いは、人間である私たちに切実に問われています。だからこそ、価値を問い、仮説を立て、社会に働きかける人間固有の力をいかに育てるかが、今まさに問われているのだと思います。
日本の子どもたちの現状と探究学習への期待
私自身が学校現場に出かけて、探究学習を一緒にやりませんかと呼びかけているのは、「探究に取り組むことで、子どもたちの自分づくりが促される、自分軸が形成される」と考えているためです。
少し古いデータになりますが、2016年の高大接続システム改革会議の「最終報告」で紹介されているデータがあります。日本の子どもたちは、米・中・韓の生徒に比べて、「自分は価値がある人間だ」という自尊心を持っている割合が半分以下。さらに、「自らの参加により社会現象を変えられるかもしれない」という意識も著しく弱い、ということが示されていました。
今の日本社会では、1 週間に10人の子どもが自ら命を絶っています。子どもの虐待死は1週間に1人。コロナ以降、いじめや暴力行為の増加、不登校の激増も続いています。こういった数字からは、子どもたちの悲鳴が聞こえてくる思いがします。もっと希望を持って、楽しい経験をたくさん学校でできれば、子どもたちも元気になっていくんじゃないか――そう考えた時に、探究学習には非常に大きな可能性があると感じています。
また、溝上慎一先生のデータによると、社会に出て成功している人は、中学2 年~高校2 年の時期に、自分のキャリアについて長期的な見通しを持つ「2つのライフ」を身につけているということが示されています。1つ目のライフは「自分はこう生きていきたい」という長期的ビジョン。2つ目のライフはそのビジョンを達成するために「今これを具体的にやっていこう」という行動力です。この両方が身についている時期が、まさに中2から高2だと言うのです(溝上慎一『高大接続の本質――「学校と社会をつなぐ調査」から見えてきた課題』学事出版、2018年参照)。大学に入ってから変わる子もいますが、大多数の子どもにとって、中高の時代が「自分軸」を形成する最も重要な時期――だからこそ、この時期の探究学習が意味を持つと言えるでしょう。
主体性にはグラデーションがある――次期学習指導要領が目指すもの
現在、次期学習指導要領の改訂に向けた議論が活発に行われています(中教審の資料や議事録はウェブでも公開されています)。今回の改訂で大きく問われているのが、「育てるべき主体性とはどんなものか」というところです。
私の同僚・石井英真さんは、「主体性」をグラデーションで捉えています(図参照。石井英真『中学校・高等学校 授業が変わる学習評価深化論』図書文化社、2023年)。一番入り口のレベルは「言われたことを受け身的にしっかりやる」「内発的な動機を持って積極的に取り組む」というもの――これは確かに大事ですが、あくまで入り口です。
もっと発展すると「自分なりに試行錯誤して工夫する」「関心が広がり、いつでも好奇心を持って情報をキャッチできる」という段階になり、さらに「自分事の問いが生まれ、深化し、視座が高まり思想が形成される」、そして「エージェンシーとして、対象世界や社会関係を作り替える」――そういうところまで発展する。
次の改訂では、この上位の主体性――アイデンティティの形成、エージェンシーとしての育ち――をターゲットとして育てていかなければならない、ということが議論されています。
また、現行の学習指導要領では「教科でも探究、総合でも探究、全部で習得」という形になり、領域ごとの役割分担が曖昧になってしまったという反省があります。次の改定では、学びを方向付ける人間性の部分は特別活動・総合が担い、主体的な挑戦の部分は教科が担うという役割分担をより明確にしていく方向で議論が進んでいます。
探究学習の多様な可能性
学習指導要領改訂の議論の中では、探究にも「研究系・行動系・創作系」という大きな方向性があることが整理されてきています。
確かに、学校現場の実践を見ても、大学での研究につながっていくようなアカデミックな研究を追求するもの、社会課題の解決のために何らかの行動を起こすもの、自分たちの探究の成果を何らかのアートとして創作して見せるもの、といったバリエーションが見られます。中には、見学した大学生が圧倒されるような、迫力のある探究も生まれています。
そうした迫力ある探究の成果は、一朝一夕には生まれません。1年生で問題意識を育み、2年生でようやく課題が設定されてきて、3年生でさらに深めて発信するという、長期スパンの視点でカリキュラムを設計することが不可欠です。
ポートフォリオ評価法――「学びのストーリー」を紡ぐために
このような長期にわたる育ちを継続的に捉えていくために、私が強くお勧めしているのがポートフォリオ評価法です。
ポートフォリオとは一言でいえば、生徒が自分の作品・自己評価の記録・先生からのアドバイスなどを系統的に蓄積したものです。ポートフォリオ作りを通して、生徒は自分の学習のあり方を振り返ることができますし、教師も生徒の活動や自分の指導がうまくいっているかを、幅広いエビデンス資料に基づいて評価することができます。
ポートフォリオには「所有権」という観点から、大きく3つのパターンがあります。
①主として教育者側が、評価基準や収めるべき作品を指定するもの。
②日々の探究のプロセスを蓄積し、学習者と教育者が相談しながら作っていくもの。
③学習者が自己アピールをするために、成果を示す資料を学習者が自由に選んでつくっていくもの。
探究学習の場合は、主として②のタイプを用いることになるでしょう。
なお、ポートフォリオを用いる際には、リアルな成果資料を残し、編集することによって、学習者自身が学びのストーリーを紡いでいくことが重要です。資料をためているばかりのデータベースや、採点結果をレーダーチャートで整理しただけのプロフィールは、本来の意味でのポートフォリオとは言えない点にご留意ください。
【参考】SIPのプロジェクト「真正で探究的な学びを実現する教育コンテンツと評価手法の開発」(研究開発責任者:松下佳代)で開発されたデジタル・ポートフォリオの活用事例をこちらのサイトで見ることができます。
ポートフォリオを機能させる3つのポイント
ポートフォリオを有効に機能させるためには、次の3つのポイントが重要です。
① オリエンテーションを丁寧に行う
最初に、「なぜポートフォリオを作るのか」をしっかり説明します。「これからみんなには探究に取り組んでもらうけれど、それに関連する資料は必ずこのファイルにまとめておいてほしい。これは、自分で学びの足跡を振り返ったり、先生に相談に乗ってもらったりする時に役立つこととなる。ゆくゆくは、自分が頑張ってきたことをアピールするためにも役立つ」と伝えることで、生徒が主体的に資料を残すように促します。
② 定期的に振り返りの時間を設け、編集する
ポートフォリオに資料をためっぱなしでは意味がありません。定期的にファイルを整理し、「ここまでに自分が達成できたことは何か」「どこで迷っているのか」「これからどう取り組んでいけばいいか」といったことを考えながら、たまった資料を見返す時間が必要です。
③ ポートフォリオ検討会を行う
最も重要なのは、ポートフォリオを見ながら対話する検討会の場をつくることです。検討会では、教師から、「今、探究しているテーマは何?」「なぜ、このテーマに関心を持った?」「何が達成できた?」「今、困っていることは何?」といったオープンエンドの問いかけをします。対話の際には、学習者が既にできている点を見つけて、しっかり褒めることが重要です。その上で、さらに発展させるためには、どういう進め方がありそうかを整理して、見通しを明確にします。
検討会では、生徒の取り組みを教師が本気で面白がって聞く姿勢が大切です。先生が楽しそうに話し相手になってくれる――そのことは、生徒に前向きな姿勢をもたらすものともなることでしょう。
ルーブリック――探究の深まりを捉える
探究の深まりを可視化するためのもう一つのツールがルーブリックです。探究学習で用いられるルーブリックは、探究の深まりを捉えるための数レベルの尺度と、それぞれのレベルに対応する探究の深まりを説明する記述語から構成される評価基準表です。
ルーブリックを作成するためには、実際の生徒作品を20個程度、用意し、複数の教師が「5.素晴らしい」「3.合格」「1.かなり改善が必要」といった感じで、お互いの採点が分からないようにして、採点します。その後、採点結果を突き合わせると、作品をレベル別に分類できます。その上で、それぞれのレベルに、どのような姿が対応しているのかを言語化して記述語をまとめていく、という手順がお勧めです。
なお、ルーブリックを作る際、観点は、多くとも3~4つ程度(多くとも6つまで)に絞りましょう。できているかどうかを〇か×で判断できる項目については、ルーブリックではなくチェックリストを評価基準として使うのが適切です。
また、ルーブリックの記述語を作る際には、「規準」と「徴候」の区別を意識しておくことが重要です。「徴候」は「規準」を満たしている場合の学習者の姿の例ですが、「徴候」が見られなかったからといって、「規準」が満たされていないとは限りません。「徴候」を参考にしつつ、エッセンシャルな「規準」を見極めておくことが大切です。
なお、次の論文では、科学的な探究に関するルーブリック作りの一例を事例について紹介しています。この事例では、探究の深まりを捉えるルーブリックだけでなく、レベルアップは図るための指導の方策についても、指導者の間で共通理解が進みました。
西岡加名恵・大貫守「スーパーサイエンスハイスクール8校の連携による『標準ルーブリック』開発の試み」『教育方法の探究』第23号、2020年3月、pp1-12
ただし、探究学習のカリキュラムは、各校が自校の特長や目指す生徒像を踏まえて作るものです。探究学習についても、各校の目標に準拠して評価が行われるべきですので、他校のルーブリックをそのまま流用するのは適切ではありません。まずは、生徒たちの探究を深めていけるようなカリキュラムを作ること、個々の生徒の探究に伴走していくことが重要です。その上で、ある程度、探究の深まりに法則性が見えてきたら、ルーブリックの形で整理することもできるでしょう。
CASIOでは、ICTを活用したスムーズな授業や「探究的な学び」「主体的・対話的で深い学び」の実践を支援するため、デジタルノート機能や課題共有に活用できる授業支援機能が入った『授業特化型アプリClassPad.net』のトライアル版をご用意しております。ぜひご活用ください。
全国の中学校・高等学校で導入されているICT教育をサポートする、カシオの「ClassPad.net」
「ClassPad.net」とは、カシオが電子辞書や関数電卓で
長年培ってきたノウハウをいかし、
開発されたICT学習アプリです。
「ClassPad.net」とは、カシオが電子辞書や関数電卓で
長年培ってきたノウハウをいかし、
開発されたICT学習アプリです。
【主な特長】
2.自由度の高いデジタルノート機能
辞書の検索結果や例文、Webページ・YouTube・Google マップのリンクなどを自由に貼り付けられるデジタルノート。調べてまとめることで思考力が身につきます。
画面は全て開発段階のため、最終仕様と異なる可能性がございます。