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【主催】未来の先生フォーラム
つくば言語技術教育研究所 所長 三森ゆりか 氏によるオンラインセミナー
「自分の考え」を整理し、言葉にする力をどう育てるか
探究活動や総合型選抜で求められる、思考の構造化とアウトプットを支える指導デザイン
本記事では、つくば言語技術教育研究所所長・三森ゆりか氏によるオンラインセミナー「思考と表現、そのために必要な言語技術」の内容をご紹介します。
生成AIをはじめとするデジタル技術の進展により、必要な情報を集めたり、文章を作成したりすることは、以前より容易になりました。一方で、集めた情報を吟味し、自分の考えとして組み立て、相手や目的に応じた言葉で表現する力は、ますます重要になっています。
生徒が文章を書けない、考えをうまく言葉にできないとき、私たちはつい、本人の語彙力や表現力に原因を求めてしまいがちです。しかし、その前に「考えをどう整理し、どの順番で表現するか」という方法を、十分に教えられているでしょうか。
今回のセミナーでは、三森氏が長年取り組んできた「言語技術教育」をもとに、意見を口頭で伝える訓練から、情報の構造化、パラグラフ、小論文、文学作品の分析へと発展させる指導法が紹介されました。
【登壇者】
三森ゆりかさん(さんもり・ゆりか)
上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業。中学2年生から4年間を旧西ドイツのボンで過ごす。大学卒業後、商社勤務を経て、ドイツの母語教育を参考に独自のカリキュラムを開発し、1990年に言語技術を指導する教室(現・つくば言語技術教育研究所)を開設。約30年にわたり自身の研究所や全国の幼稚園から大学院で子どもや学生に言語技術を教えているほか、日本オリンピック委員会や日本サッカー協会などのスポーツ団体、数多くの企業で指導にあたっている。これまでに、文部科学省の読解力向上に関する検討委員会、言語力育成協力者会議などの委員を歴任。『子どものための論理トレーニング・プリント』(PHP研究所)、『ビジネスパーソンのための「言語技術」超入門』(中央公論新社)など、著書・監修書多数。
言語技術は、単なるテクニックではない
「言語技術」というのは、英語の「Language Arts」の訳語です。私の知る限りでは、1955年頃から日本に存在する言葉です。
「技術」と訳されているため、文章を書くためのテクニックや、話し方のコツのように受け取られることがあります。しかし、本来の言語技術は、単純なテクニックを意味するものではありません。話すこと、聞くこと、書くこと、読むこと、そして考えることまで含めた、言葉全体を扱う一つの言語教育体系です。
もともとは古代ギリシャの修辞学に始まり、その方法論はヨーロッパ全域で共有されてきました。中東もギリシャ文明の影響を受けていますし、ヨーロッパ人の移動とともに、北米、南米、オセアニア、アジアの英語圏、アフリカの英語・フランス語・ドイツ語圏などにも広がりました。
数学と同じように、世界のさまざまな地域で方法論が共有されている、いわばグローバルスタンダードの言語教育です。
日本語で考え方を組み立て、相手に伝わる形で共有できるようになれば、その構造を英語などの外国語に変換することも容易になります。
目標は、自立して考え、解決し、表現できる人を育てること
言語技術の第一の目標は、自立してクリティカルシンキングができる人を育てることです。
クリティカルシンキングという言葉は、日本ではビジネス用語として扱われることが多いのですが、分かりやすく言えば、一つの方向だけではなく、さまざまな方向から物事について考える力です。
その力を使って、自立して問題を解決する。そして、自分が考えたことを、口頭や文章で自在に表現できるようにする。ここでいう「育成する」とは、具体的な方法を教え、繰り返し訓練するという意味です。
さらに最終的には、自国の文化に誇りを持った、教養のある人を育てることを目指します。そのため、言語技術では文学教育も非常に重視されています。言葉は、人間の思考や表現を支える重要なものです。だからこそ、発達段階に応じて、算数や数学と同じように、必要な技能を一つずつ積み上げていきます。
そうして最終的に、自分で考え、話し、書き、読み解くための方法を自在に使いこなせるようにしていくのです。「考える」ことの中には、論理的思考だけでなく、分析的に考えること、多角的に考えること、システマティックに考えることも含まれます。
もう一つ、特に重視されているのが、自分だけの考えを持つための創造的思考です。そのために、大量の読み物やさまざまな題材を使いながら、考え方そのものを教えていきます。
欧米では、小学校1年生から「話す・書く」を体系的に学んでいる
例えば、アメリカの母語教育では、「話す・聞く・作文する・読む」ことが非常に重視され、それぞれについて具体的な方法を教えます。
小学校1年生から、話し方、スピーチの仕方、議論の仕方、プレゼンテーション、ディベートなどを段階的に学びます。
作文についても、穴埋めや選択式の回答を中心にするのではなく、小学校1年生から継続して文章を書くことを学びます。
しかも、一つの書き方だけではありません。
物語・説明・描写・意見など、目的に応じたさまざまな文章の書き方を教えます。
読むことについても、小説や戯曲といった文学が重視されるほか、評論文、説明文、新聞なども対象になります。
ドイツの母語教育でも、「話す・聞く・書く・読む・考える」が重要な内容になっています。話す領域では、対話、議論、発表、演説、ディベートなどを小学校1年生から積み上げます。
作文については、
物語・創作・説明・描写・報告・要約・分析・アピール・意見文・論文
といった形で指導していきます。高校を卒業するときには、相当な長さの論文を書けるところまで育てます。
読む対象には、超短編、短編小説、長編小説、戯曲といった文学だけでなく、絵画や映画も含まれます。評論や説明文、メディアリテラシーも重要な学習内容です。
考えることに関しては、「今日はクリティカルシンキングを勉強しましょう」と名称だけを教えるわけではありません。
授業そのものの中に、論理的に考える、分析する、多角的に捉える、創造的に考えるといった活動が組み込まれ、自然にそのような思考ができるように設計されています。つまり、「よく考えましょう」と抽象的に求めるのではなく、考え方そのものが教科内容として組み込まれているのです。
日本人に必要なのは、「意見を言う」「意見を書く」訓練
日本人にとって特に大切なのが、自分の意見をきちんと言い、書くことです。
私がそのために行っているのが、「問答トレーニング」あるいは「問答ゲーム」と呼んでいる訓練です。これは、質問をされたら答える、という活動を取り出して指導する方法です。
日本では、自分の意見を言うことそのものを十分に訓練してこなかった人が少なくありません。そこで、質問されたときに、何をどのような順番で答えるかを、ゲームのような形で練習します。
問答ゲームの基本ルール
問答ゲームには、次のようなルールがあります。
①最初に主張、または結論を言う
②日本語では省略されやすい1人称の主語を入れる
③問われていなくても理由を言う
④最後に、自分が言ったことをもう一度まとめる
⑤さらに質問を重ねられても答える
最初に主張や結論を言うのは、相手が話の見通しを持てるようにするためです。
その後に理由を示し、最後にもう一度まとめます。そして、一つ答えて終わるのではなく、その答えに対して三つ、四つと質問を重ねられても答えるようにします。この訓練を続けることで、どのような方向から質問されても、怖がらずに答えられるようになります。それが表現力につながっていきます。
質疑応答では、「認知・分析・決断・実行」が起きている
この力を説明するうえで分かりやすいのが、スポーツで使われている「認知・分析・決断・実行」という考え方です。
例えばサッカーでは、まず目の前の状況を認知します。次に、どうすればよいかを瞬時に分析し、複数の選択肢の中から行動を決断して、実行します。この循環が速い選手ほど、よい選手だと考えられています。
質疑応答でも、同じことが起きています。相手から「いつですか」と質問されたら、「いつ」という問いに対して、何を答えるべきかを認知し、分析します。そして、どのように答えるかを決断し、すぐに言葉にします。この循環を何度も経験させることが重要です。
質問を大量に受けると、生徒の側にも変化が起こります。質問に答えられるようになるだけでなく、状況を見たときに、自分から問いを立てられるようになるのです。
一つの行動を、複数の観点から分解する
例えば、サッカーやバスケットボールの「パス」について考えてみます。
・どこに出すのか
・なぜ出すのか
・どのようなパスをするのか
・何のために出すのか
・いつ出すのか
・誰とするのか
というように、一つの行動を複数の観点に分解できます。
さらに「いつ」という問いからも、
・タイミングはいつか
・動き始めるのはいつか
・時間をかけるべきか
・素早く行うべきか
と、問いを枝分かれさせられます。
「どのように」という問いからは、
・どの種類のパスか
・速さはどの程度か
・どれくらい回転をかけるか
と考えを広げられます。
一つの対象を複数の問いに分解し、それぞれについて考える。この訓練が、思考と表現の土台になります。
口頭で終わらせず、記述に落とす
口頭で考えたことは、その場では表現できても、話し終われば消えてしまいます。そのため、言語技術では、口頭で考えたことを必ず記述へつなげることを重視します。問答ゲームで話した内容を、文章として残すために使うのが「パラグラフ」という形式です。
パラグラフは、思考を文章にするための型
パラグラフは、単に文章を区切るための段落ではありません。一つの考えを、相手に伝わるまとまりとして形にするための型です。
例えば、自分の意見を書く「意見型パラグラフ」は、次の三つの要素で構成されます。
①トピックセンテンス
最初に、自分の主張や結論を書きます。
最初に全体のポイントを示すことで、読み手は「これから何について説明されるのか」という見通しを持てます。
②サポーティングセンテンス
トピックセンテンスを支える複数の文です。
ここに、理由・根拠・詳細な説明・具体例などを書きます。
③コンクルーディングセンテンス
最後に、「自分はこのようなことを述べました」と、内容をもう一度まとめます。
この三つで一つのパラグラフを作ります。最初を一字下げ、その後は途中で改行せず、まとまりとして書くのが基本です。
問答ゲームでも、「結論→理由→まとめ」という順番で話しました。つまり、口頭で身につけた表現の型を、そのまま記述へ移すのです。
いきなり書かせず、まず情報の構造を考えさせる
パラグラフの形式が分かっても、理由や具体例などの材料を、どの順番で並べればよいかが分からなければ、分かりやすい文章にはなりません。そこで必要になるのが、情報を分類し、順序づける方法です。
その一つが「空間配列」です。
「大きい情報から小さい情報へ」並べる空間配列
例えば、フランス共和国の国旗を、実物を見ていない相手に言葉だけで説明するとします。
そのためには、まず国旗を構成する情報を、
形・柄・色に分解します。
並べる順番も重要です。
形が最も包括的で大きな情報です。その形の中に柄があり、柄を説明した後でなければ、それぞれの色を十分に説明できません。
そのため、「形→柄→色」の順番で情報を並べます。さらに、それぞれの項目の中でも、大きな情報から小さな情報へ進みます。
形については、まず「横長の長方形」と全体像を示し、その後に「縦横比は2対3」と詳細を伝えます。
柄については、まず「縦縞」と示し、その後に「3本が均等に配されている」と説明します。
色については、まず「3色」と示し、その後に「左から青・白・赤」と説明します。
これを文章にすると、次のようになります。
フランス共和国の国旗は、形と柄、色の三つの要素で構成されている。まず、形は横長の長方形で、その縦横比は2対3である。次に、柄は縦縞で、3本の縞が均等に配されている。最後に、その柄は3色で、左から青、白、赤の順に並んでいる。以上のように、フランス共和国の国旗は、形と柄、色の三つの要素で成り立っている。
最初に全体像を示し、その後に細部を説明し、最後にもう一度全体をまとめています。文章の形式だけでなく、情報の並べ方そのものが論理的に組み立てられていることが重要です。
より複雑な情報も、分類すれば整理できる
フランス国旗より複雑な例が、中華人民共和国の国旗です。
中国国旗の場合は、まず大きく、図形・柄という二つの要素に分けられます。
さらに、図形は、形・色に分けられます。
柄については、位置・星の数・星の色・星の大きさ・星の配置
と、さらに細かく分類できます。
柄は国旗の左上にあり、五つの黄色い星で構成されています。そのうち、左側に一つの大きな星があり、その右側を四つの小さな星が半円を描くように囲んでいます。これらの情報を、そのまま思いついた順番で書くのではありません。
まず要素を取り出し、同じ種類の情報をまとめ、どの項目を先に説明するかを考え、構造図を作ります。その後に、文章全体のアウトラインを作り、最終的に作文へ移ります。
文章にすると、次のような形になります。
中華人民共和国の国旗は、図形と柄の二つの要素で構成されている。第一に、図形は形と色から成り立つ。形は横長の長方形で、その縦横比は2対3である。また、全体が赤で塗られている。第二に、柄は国旗を十字に四分割した左上にあり、五つの黄色い星で構成されている。星の配置は、左側に一つの大きな星があり、その右側に四つの小さな星が半円を描くように並んでいる。以上のように、中華人民共和国の国旗は、図形と柄の二つの要素で成り立っている。
フランス国旗で学んだ基本的な情報整理の方法を、より複雑な中国国旗へ応用しています。このように、簡単な題材から始め、情報量が多い題材へと段階的に進むことで、生徒は自分で情報を分類し、構造化できるようになります。この文章構造は日本語だけに使えるものではありません。同じ構造を使って、英語、ドイツ語、フランス語などにも展開できます。
作文の前に、構造図を作る
実際の授業では、例えば履正社の高校1年生にフランス国旗を使った描写型パラグラフを考えさせます。
私は黒板で、生徒たちと議論しながら情報を整理します。生徒は手元の用紙に付箋を貼りながら、どの情報をどこに置くかを考えます。
そして、構造が見えるようになった後で作文を書かせます。いきなり「書きなさい」とは言いません。
まず、
①対象を観察する
②必要な要素を取り出す
③同じ種類の情報を分類する
④大きい情報から小さい情報へ並べる
⑤構造図やアウトラインを作る
⑥文章を書く
という手順を踏みます。
高校1年生でこうした基本を学び、高校3年生では同じ方法を使って、総合型選抜に対応する小論文へつなげていきます。
例えば中学生には、人物の服装を説明する課題も行っています。服装を構成する要素を取り出し、どの順番で説明すれば相手に様子が伝わるかを考えます。そして、ツリーマップのような構造図を作った後で作文を書きます。書かれた作文を添削し、生徒に返す。その繰り返しによって、表現する力を育てていきます。
書けないのは、生徒の能力が不足しているからとは限りません。書く前に、情報をどのように組み立てるかを教えられていないことが、大きな原因になっている場合があります。
文学を読み、考え、発表することで、表現は深まっていく
ここまでは、説明的な文章を中心にお話ししました。しかし、言語技術を取り入れている国々では、文学が非常に重視されています。
私の授業でも、中学1年生を指導する場合、年間に3冊ほど、1冊の本を丸ごと扱います。生徒たちは、1冊の本を全員で議論しながら分析します。そして最終的には、考察した内容をポスターで表現し、発表したりします。最初から生徒だけで深い分析ができるわけではありません。
・物語の構造
・登場人物の読み方
・登場人物同士の関係
・作品の中で起きている問題
・言葉や表現の意味
などを、段階的に学んでいきます。
1冊、2冊と積み重ねる中で、生徒たちは「何をどのように捉え、それをどう表現するか」を、自分たちの中に持つようになります。
何冊も経験した後は、私は全体を見ながら、時々相談に乗る程度で、生徒たち自身に分析や表現を任せられるようになります。
『華氏451度』を読み、「本とは何か」を考える
履正社の高校1年生では、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』も扱いました。本が禁書となったディストピアの世界を描いた作品です。生徒たちにとっては、中学1年生から数えて10冊目の本で、初めて大人が主人公となる一般書でした。作品を全員で分析した後、生徒たちはポスタープレゼンテーションに向けて、考察した内容をまとめました。
ポスター発表では、生徒たちが10分から15分ほど、自分たちの考察を説明します。その後、ほかのグループの生徒、保護者、教員が質問し、生徒たちが答えます。私が非常に驚いたのは、生徒たちが、準備していなかった質問にもよどみなく答えていたことです。予想外の質問に答えられたのは、話し方だけを練習したからではありません。作品を深く読み、自分たちで考え抜いていたからです。
・本とは何か
・本が存在しない世界とはどのようなものか
・自分たちにとって読書とは何か
という、これまで深く考えたことのなかったテーマについて、一人ひとりが探究できていました。文学を読むことは、単に感想を持つことではありません。作品について考え、自分の解釈を作り、他者に伝え、さらに質問に答える。文学は、考えを深め、表現し、問いに耐えられる力を育てる教材になります。
小論文は、「序論・本論・結論」の前に、まずパラグラフを学ぶ
文学作品について深く考えた後、その考察を小論文にまとめることもあります。そのためには、当然、小論文の書き方を教える必要があります。
日本では、小論文の指導として「序論・本論・結論で書きましょう」と説明されることがあります。しかし、それだけを教えて、いきなり小論文を書かせるのは困難です。小論文を書くためには、その一つ手前にある、パラグラフの組み立て方を理解しておく必要があります。
先ほど説明したように、パラグラフは、
・トピックセンテンス
・サポーティングセンテンス
・コンクルーディングセンテンス
で構成されます。
例えば、教育において国語が重要であることを意見型パラグラフで述べるなら、最初に、
教育において全教科の基礎となる教科は国語であり、それには二つの理由がある。
というトピックセンテンスを置きます。
この文を読めば、読み手は、
・国語が全教科の基礎であること
・その理由が二つ示されること
をあらかじめ理解できます。
続くサポーティングセンテンスでは、一つ目の理由を説明し、具体例を示します。その後、二つ目の理由を説明し、やはり具体例を示します。
最後のコンクルーディングセンテンスでは、それまでの説明を踏まえ、
以上の二つの理由から、国語を十分に指導することは、すべての教科の学力向上につながる。
というような形で、パラグラフ全体をまとめます。
ここで重要なのは、サポーティングセンテンスの中身も、思いついた順番に書かないことです。どちらの理由を先に示すべきか、どちらがより包括的な情報か、後の説明の前提になるのはどちらかを考え、論理的な順番に並べます。これは、国旗の説明で行った「大きい情報から小さい情報へ」という組み立てと同じです。
パラグラフの構造を、小論文全体へ拡張する
一つのパラグラフの構造が理解できると、それを小論文全体へ広げることができます。
分かりやすい形式が、「5パラグラフ・エッセイ」です。五つのパラグラフから構成される小論文で、基本構成は次のとおりです。
①序論
②本論の第1パラグラフ
③本論の第2パラグラフ
④本論の第3パラグラフ
⑤結論
重要なのは、この五つが単なる五つの段落ではなく、それぞれが一つのパラグラフとして成立していることです。
本論の第1パラグラフにも、
・トピックセンテンス
・サポーティングセンテンス
・コンクルーディングセンテンス
があります。第2パラグラフ、第3パラグラフも同じです。
つまり、一つの考えを説明するパラグラフを複数組み合わせることで、小論文の本論を作ります。
パラグラフの内容を拡張すると、本論になる
フランス国旗を例に考えてみます。一つの短いパラグラフでは、サポーティングセンテンスの中で、形・柄・色を順番に説明しました。
もし、それぞれについて説明する情報が多ければ、一つのパラグラフだけでは収まりません。
その場合は、
・本論の第1パラグラフで「形」を説明する
・本論の第2パラグラフで「柄」を説明する
・本論の第3パラグラフで「色」を説明する
という形に展開できます。
一つのパラグラフの中にあった三つの説明が、それぞれ独立した本論のパラグラフになるのです。この関係を理解すると、生徒はパラグラフと小論文を別々のものとして捉えず、同じ構造を拡張したものとして理解できます。
序論では、本文の見通しを読み手に渡す
本論の前には序論が必要です。序論は、単に最初の段落というだけではなく、読み手を本題へ導き、これから何について、どのような順番で論じるのかを示す役割を持ちます。
序論には、次のような要素があります。
・読み手の関心を引く一般論やフック
・テーマを理解するための背景情報
・本題へつなぐ橋渡しの文
・小論文全体の主張を示す論題(テーシス・ステートメント)
この論題(テーシス・ステートメント)は、一つのパラグラフにおけるトピックセンテンスに当たります。
仮にフランス国旗について小論文を書くなら、序論の最後に、
フランス共和国の国旗は、形・柄・色の三つの要素から説明できる。
という論題を置きます。
この一文を読むことで、読み手は、本論が、 形・柄・色の順番で展開されることを予測できます。つまり、最初に論題を示すことは、単に結論を早く伝えるという意味ではありません。読み手に文章全体の設計図を渡し、その後の説明を理解する準備をしてもらうことなのです。
結論では、論題を言い換え、考察を発展させる
小論文の最後に置く結論も、一つのパラグラフとして構成します。結論の最初では、序論で示した論題(テーシス・ステートメント)を、同じ言葉の繰り返しにならないように言い換えます。
そのうえで、
・本論で明らかになったこと
・今後考えるべきこと
・発展的な考察
・将来への展望
などを示して、文章全体を閉じます。
このように、
・一つのパラグラフを作る
・パラグラフの中の材料を論理的に並べる
・複数のパラグラフを組み合わせる
・序論で全体の見通しを示す
・結論で全体をまとめ、発展させる
という順番で学べば、小論文を書くことは、まったく新しい技術ではなくなります。
「序論・本論・結論」だけでは書けない
日本では、小論文について「序論・本論・結論で書きましょう」と教えることが多いと思います。しかし、それだけでは、生徒は、
・序論に何を書けばよいのか
・本論をどのように分ければよいのか
・一つの段落の中をどう構成すればよいのか
・どの順番で理由や具体例を並べればよいのか
・結論で何をまとめればよいのか
が分かりません。
その状態で「自由に書きましょう」と言われれば、難しいのは当然です。一つ手前にあるパラグラフの形式を教え、さらに、その中の情報をどのように分類し、並べるかを教える。そうすれば、小論文は「何を書けばよいか分からないもの」ではなく、これまで学んできた方法を組み合わせて作るものになります。
問答ゲームで口頭表現を学び、情報を構造化し、パラグラフを書き、そのパラグラフを複数組み合わせて小論文にする。言語技術は、それぞれの活動を別々に教えるのではなく、一つの積み上げとして指導します。
この流れを理解すれば、小論文だけでなく、レポート、論文、プレゼンテーション、企業で必要になる文書など、さまざまな表現に応用できます。
Q&A:聴講者からの質問と回答
Q1.物語や小説を読む場面でも、言語技術は使えるのでしょうか
もちろん使えます。日本では「論理国語か文学国語か」という議論の中で、文学には論理がないかのように扱われることがあります。しかし、文学作品も、論理的な構造がなければ成り立ちません。物語の骨格を支えているのが、プロット・ストラクチャー、ストーリー・ストラクチャー、日本語でいう「物語の構造」です。日本でも山場やクライマックスは学びますが、諸外国では、物語の構造を体系的に学び、それを次の三つに展開します。
・文学作品を読む
・自分で物語を書く
・プレゼンテーションに使う
ビジネスの世界でも「ストーリーテリング」という言葉が使われていますが、これも物語の構造を使って相手に伝える方法です。例えば、スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチでは、自分の人生を時系列に沿って語っています。しかし、単に出来事を順番に並べているわけではありません。最初に「これから何を語るか」という導入があり、最後に全体をまとめる結論があります。文章でいえば、物語型小論文の形式になっています。言語技術という言葉は堅く聞こえるかもしれませんが、言葉を通じて情緒や心情を育てることも含んでいます。その意味でも、物語や文学は非常に重要です。
Q2.『華氏451度』のような本は、どれくらいの時間で読み、アウトプットするのですか
履正社において言語技術に使える時間は、年間で50時間程度です。その中で年間3冊ほどの本を扱うため、1冊に授業で使える時間は6時間程度、例えば2時間の授業を3回行うようなイメージです。ただし、1冊の本を読む授業だけで、すべての読み方を一から教えるわけではありません。
それまでの学習で、
・物語の構造
・登場人物の読み方
・登場人物同士の相互関係
・作品の問題を分析する方法
を積み上げています。
また、授業の合間には超短編小説も扱い、文法や一つひとつの語彙にこだわって読む訓練をしています。その蓄積があるため、1冊の本を扱うときにも、言葉や構造に注意しながら読み、限られた時間の中で議論やアウトプットにつなげられます。
Q3.読む本は、どのような観点で選んでいるのでしょうか
私が本を選ぶ際に重視しているのは、社会問題を扱っているかどうかです。例えば、
・人種差別
・ユダヤ人問題
・原子力発電所の事故
・里親制度
・親の死
・本や言論の自由
などです。生徒たちの日常と完全にかけ離れてはいないものの、普通に生活しているだけでは経験しない問題を扱った作品を選びます。『華氏451度』を選んだ際には、生徒たちに「本とは何か」を考えてほしいと思いました。それまで、本が嫌いだった生徒たちも、全員で議論しながら何冊も読む経験を重ねてきました。その経験を通して、本というものが自分たちにとってどのような存在になったのかを考えてほしかったのです。
そのため、作品だけを読ませるのではなく、アウシュビッツで8冊の本を守り抜いた実話を描いた『アウシュビッツの図書係』や、アルベルト・マングェルの『読書の歴史』の一部など、関連資料も渡しました。1冊の本を読んで終わるのではなく、そこから何を発展的に考えられるかを意識させています。
Q4.今回の講義内容は、上位層の生徒を想定しているのでしょうか
特別に偏差値の高い学校や、上位層の生徒だけを想定したものではありません。実際に、言語技術を導入したいと相談されるのは、中堅層の学校が多くあります。私は、それには大きな意味があると考えています。もともと学力の高い生徒であれば、「できて当然」と受け取られてしまうことがあります。しかし、中堅層の学校の生徒たちが、方法を学ぶことによって大きく変わっていく姿は、非常によく見えます。
また、私は企業で社会人にも指導しています。一流大学を卒業した方々からも、
・中学生の頃から学びたかった
・これを知っていれば人生が変わっていたかもしれない
・海外へ行く前に身につけたかった
という声をよく聞きます。海外では、本や文化について分析的に語り合う機会があります。日本では何となく本を読んできた人が、分析的に読んできた相手の教養に圧倒されることもあります。言語技術は、一部の生徒だけに必要なものではなく、誰もが学ぶ意味を持つ基礎的な方法だと私は考えています。
Q5.生徒が「何から書けばよいか分からない」とつまずくのは、どの段階なのでしょうか
日本では、生徒が文章を書けないとき、「この子はつまずいている」と、生徒の側に原因を求めることがあります。しかし、本来は、その前に書き方を教える必要があります。生徒に「こう書きなさい」と完成形だけを示すのではなく、まず教えるべきなのは、考えや情報の組み立て方です。例えば、「あなたはサッカーが好きですか」と質問したとします。
生徒が、
私はサッカーが好きです。なぜなら、面白いからです。だから、私は毎日サッカーをしています。
と答えたとします。そこで、
・誰とサッカーをすると一番面白いのか
・どのようなところが楽しいのか
・どんな経験があったのか
と質問を重ねます。その後で、「今話した内容を意見文にしましょう」と言えば、生徒は、
主張・理由・詳細・具体例・まとめを持った文章を書きやすくなります。重要なのは、口頭での表現と文章での表現を、同じ形式でつなげることです。また、理由や具体例に当たるサポーティングセンテンスを、質問によって膨らませることも大切です。付箋などを使いながら内容を整理し、組み立て方を考えた後で書かせると、文章は大きく変わります。最初から「好きなことを自由に書きなさい」と言えば、書けなくなる生徒が出るのは当然です。最初は全員で同じテーマを扱い、同じような作文ができても構いません。まず型を理解することが重要です。やり方が分かれば、その後はいくらでも応用できます。
欧米のパラグラフ型作文では、評価する際に、まず形式が重視されます。次に内容、そして文法や語彙です。ここでいう形式とは、表面的な書式ではありません。
・最初に結論があるか
・主語が明確か
・理由や具体例が結論を支えているか
・情報が論理的な順番で並んでいるか
・最後に内容がまとめられているか
という、思考と文章の構造です。日本人の文章では、最初の結論が抜けることが少なくありません。だからこそ、最初にポイントを示し、その後に理由や具体例を並べ、最後にもう一度まとめる形式を教えることが大切です。
Q6.こうした形式は、大学受験や小論文だけでなく、その後にも役立つのでしょうか
もちろん役立ちます。最初に全体像を示し、その後に大きな情報から小さな情報へ進み、最後にもう一度ポイントをまとめる。この構造が理解できれば、
・小論文
・レポート
・論文
・プレゼンテーション
・企業の報告書
・提案書
・質疑応答
など、さまざまな表現に応用できます。短い時間で端的に説明するときにも、同じ形式が使えます。形式を学ぶことは、自由な表現を制限することではありません。基本となる方法が身につけば、そのうえで内容や目的に合わせ、自分なりの表現へ発展させられるようになります。
先生方へのメッセージ
「言語技術」という名前は、とても堅苦しく聞こえるかもしれません。しかし、もともとは「Language Arts」という言葉の訳です。言葉を使って人間が行う営みのほとんどすべてが含まれます。
・文字を書く
・文法を理解する
・考えたことを表現する
・書かれたものを読み、考える
・絵や映像を見て、考えたことを言語化する
・他者と議論する
・自分の意見を文章にする
こうした活動を、発達段階に応じて積み上げていくのが言語技術です。本来は、小さい頃から数学と同じように、順序立てて学ばせてあげるのが理想です。現在の日本の教科書にも、言語技術につながる要素は数多く入っています。しかし、それぞれの活動が十分に順序づけられていない場合があります。「視点を変えて考えてみよう」「意見文を書いてみよう」「分析してみよう」「描写してみよう」と、一つひとつの活動が断片的に提示されても、それらが最終的に、
・小論文を書く
・論文を書く
・人前で発表する
・対話や質疑応答を行う
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